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[コメント] ライフ・イズ・ビューティフル(1997/伊)

Life could be as beautiful as you wish it to be. 長すぎ→
ろびんますく

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この映画は何を伝えているのか。(個人的に映画は観た者がそれぞれ何を感じたかだと思っているので、監督ロベルト・ベニーニのそもそもの製作意図が何であったかについてはここでは触れない。)

ホロコーストの悲惨?戦争の狂気?人間の愚かさ?それもあるのかもしれない。しかし、この作品を通して徹底的に描かれているのは、一人の男が自分の愛する者を(物理的・精神的に)守り抜く様だと思う。その過程において彼は次から次へとぽんぽん嘘をついていく。観ている方が若干居心地の悪さを感じる程のたくさんの嘘。だが、その嘘は醜い嘘か。父親の話が嘘だったとわかったらあの子供は失望して父親を恨むだろうか。そうは思わない。彼が、自分を守るために父親がしてくれたことを思い返し、そして想像したとき、彼はきっと気付くと思う。父親が自分に注いでいた愛情の深さに。そして、いつか自分の子供に対してその話を伝えたいと思うのではないだろうか。この映画は成長後のあの子供であるナレーターの声を通じて語られるわけだが、彼が自分の子供に対してあの話を聞かせているような気がしてならない。

子供が本当のことに気付かなかったのは不自然と思う人もいるかもしれない。しかし、彼は全く気付いていなかったわけではない。半信半疑。というより、むしろ父親を疑う気持ちの方が強かった。実際ある時点までは彼は不平・不満をこぼす。もしかしたら彼は本当は気付いていたのかもしれない。こうは考えられないだろうか。もし彼が本当のことに気付くような頭の良い子なら、ある時点から、自分のことを守ろうと必死だった父親の嘘に付き合っていく決心をしたのだと。(事実、彼が戦車を見て叫んだのは「やった!」ではなく「本当だった!」)まあ、彼が気付いていたのかどうかは分からないし、それぞれの見方でいいと思う。ただ、ひとつ言えることは、ある時点で気付いていたにせよ、後々気付くことになったにせよ、彼が父親の自分に対する深い愛情を感じられなかったことは無いだろうということだ。だから、個人的には結局どちらでもいいように思う。

最初にこの映画に反戦的な側面がないわけではないと言った。ていうよりも、収容所を物語の舞台にしている以上は、その舞台について意識しないことはほとんど不可能なこと。しかし、仮にこの映画を「ホロコーストの悲惨」「戦争の狂気」「人間の愚かさ」を伝えたいものとして捉えたとしても(個人的にはそれはメインではないと思うが)、そのメッセージで失敗はしていないように思う。まず、前提として、この映画は当たり前だが、間違ったメッセージ(アウシュビッツは無かった云々)を発しているわけではない。だから批判の対象となりうるとすればメッセージの内容ではなく、それを伝える手段だろう。だが、戦争を題材として扱い何らかのメッセージを発する際には、映画には(幸いなことに)様々な手段がある。徹底的に戦場や収容所のリアリティーの追求によりそれを行う映画ももちろんある。しかし、現実的とは思われない描き方をしてより明確にそれを訴える手段もあって然るべしと思う。(むしろそのような描き方の方がより明確に伝わるものもある。画家に許される画法が多様なのと同様。)そして、『ライフ・イズ・ビューティフル』における収容所での物語は後者の手段でまざまざと上に述べたようなメッセージを我々に伝えてくれる。その描き方に実際に先の戦争であれを経験した人たちが不満を述べるだろうか?(実際にその人たちに会って話を聞いたわけではないので、推測の域を出ず、当然断定的なことは何も言えないのだが)ぼくはあの描き方だからこそ伝えられたものに共感する人が多いように思う。もちろん、映画にそのような手段が許されるのは、事実を人間に可能な限り事実のまましっかりと伝える公式の資料や他のメディアがあればこその話なのは当たり前かつ最も重要なことなのだけれど。

ぼくはこの映画を観て、感じて、泣いた。ここで書いたことは全てそれへの単なる付け足しに過ぎない。

(評価:★5)

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