[コメント] 夜(1961/伊)
映画を見終った人むけのレビューです。
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孤独、そして空虚で満たされた映画。街を、夜の豪邸を、ひとり彷徨うジャンヌ・モローの背中からは孤独が漂う。クロースアップになった際のモローの目からは空虚が伝わる。
絶対にカラー作品では表現し得ないモノクロ映像による陰影を生かした画面はモローの内面の孤独を見事に捉え、気だるい雰囲気と同時に、相手を射抜くような鋭い目つきを見せたモローの演技は満たされない女性を見事に表現していた。このモローと対比されるよう妖艶な雰囲気を醸し出したモニカ・ヴィッティもインパクトを残す。女優ふたりが完全にマストロヤンニを圧倒していた。
上述の見事な映像による雰囲気と、女優の演技によって孤独と空虚を丁寧に描くこの映画は、クライマックスでの「もうあなたを愛していない」という告白のためだけにある。すべての描写は長い長い前振りのようなものだが、これだけ時間をかけたからこそ、最後のモローによるマストロヤンニへの告白が生きるのだ。
モローはラブレターを読む。マストロヤンニは尋ねる。「誰からの手紙だ」。モローの答えは「あなたよ」。マストロヤンニは口では「愛している」というが、これが過去の自分が書いた手紙だと気づかないところで、ふたりの間にもはや愛はないということが象徴されている。
このやりとりのすぐ後のラストシーン、無理にキスをせがむマストロヤンニ、拒むモロー、このふたりの絡み合いに虚しさだけが走る・・・。ミケランジェロ・アントニオーニの映画は“愛の不毛”がキーワードであるが、このラストシーンはその“不毛”をまさに感じさせてくれる。
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