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[コメント] 黒い罠(1958/米)

監督としても、俳優としても、オーソン・ウェルズが映画の全てを支配している。陰影を巧みに使った見事なモノクロ映像、そしてウェルズの役柄から、ウェルズ監督版『第三の男』を連想させるフィルム・ノワールである。
Keita

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 有名な冒頭の長回し、果たしてどのようにして撮影したのだろう。その移動撮影は車の爆発によって初めてカットが変わる。大きな爆発音と同時に映画が動き出したという印象を受ける。長回しも素晴らしいが、長回しを終わりにするタイミングも同じく素晴らしい。

 冒頭シーン以外もかなり撮影に趣向が凝らされている。妙なまでのローアングルや陰影の使い方。オーソン・ウェルズはステレオタイプの表現技法は一切使わない監督に思える。もちろん、そのこだわりが成功している。

 素晴らしい撮影は、影が非常に重視されているため、画面も黒でいっぱいになる。しかし、見にくいと感じるどころか、その映像が雰囲気を作って話をぐいぐい引っ張っていく。サスペンスと同時に、人間模様がしっかり絡まっていることもあり、テンポも良く展開していく。

 そして終盤、そこに漂うのはフィルム・ノワールの味わい。悪徳警官であるはずなのに、ウェルズの圧倒的な存在感を前にしては彼の役柄に肩入れしたくなるのも仕方がない。証拠捏造を続けたことは当然罪であるが、彼自身が生きてきた背景を考えると「これがお前のために受ける2発目の銃弾だ」といった死の前の一言に哀しみを感じてしまう。善玉のチャールトン・ヘストンが主人公なはずだが、ラストシーンを見るとウェルズのための映画だったと思わざるを得ない。その構成は少し気に食わない部分もあるのだが、全編で強烈な印象を残していたことを考えると仕方ないと思えてくる。

 余談だが、こちらの方が製作年は先だが、ジャネット・リーとモーテルとなると、どうしてもヒッチコックの『サイコ』を連想してしまいます。何かが彼女を襲いそうな感覚を持ち続けていたら、やっぱり襲われましたね。

(評価:★4)

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