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[コメント] マンダレイ(2005/デンマーク=スウェーデン=オランダ=仏=独=米)

またもやラース・フォン・トリアー! だが過激で衝撃的描写よりも、現代社会への鋭い問題提起の方が興味深いと感じた。前作より自分自身が落ち着いて観られるようになったからか…。(2006.04.09.)
Keita

**ネタバレ注意**
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 前作『ドッグヴィル』を観ているので、もう免疫ができてしまっている。ラース・フォン・トリアーならこのぐらいは衝撃的にしてくるだろう、という免疫。だから、作品の衝撃度にもはや驚きはない。その点『ドッグヴィル』よりも作品のインパクトは薄く感じた。だが、それだけではないということを、トリアーはこの作品で証明できたのではないだろうか。前述の免疫のおかげでじっくりと鑑賞することができたが、唯一無二の手法で、前作からさらなる問題提起をしたのはさすがだ。

 すべてを演劇的なセットの中で象徴的に切り取り、それが的を得ている。

多数決による採決をいくらでも都合良く利用できるという民主主義の歪み。グレース自ら導入した民主主義を逆手に取られ彼女は窮地に追い込まれる。多数決は実質派閥などにより操作されるようになってしまっているという側面もある。人数が多ければ正しいというのは、必ずしも正解ではない。正しさ、とは一体何なのだろう。

自らの正義と理想を信じたグレースのマンダレイへの介入は、彼女の父親が言う「新しい“マンダレイ”を見せてくれ」という質問の解答へ繋がらなかった。全然違う体制の下へ新しい理念で強引に理想の体制を築こうにも、いきなり適応できるわけがない。アフガニスタンのタリバン政権、イラクのフセイン政権を一方的につぶしたアメリカは、そこでアメリカ的民主主義の下、新体制を築こうとしている。しかし、当然反発は起こる。奴隷制にしろ、軍事独裁にしろ、正しい体制ではないが、民族、土地にとって何がベストか、という視点が抜けている状態で理想主義的に改善を臨むのは危険だ。グレースも、アメリカも、それは同じだ。

 『ドッグヴィル』との共通点でいうと、暴力的解決を最終的に人間は選ぶ、という汚い部分を描いていることに思える。マンダレイの誰もが反対をしなかった死刑判決もそうだし、最後には自ら鞭を手に取ったグレースもそう。頭に来るとつい手を出してしまうのが人間の本質。それの発展系に武力行使や戦争があるように思う。認めざるを得ない人間の汚い本質を、またもや突きつけられた。

 アメリカ三部作の最終作『ワシントン』はどのような作品になるのだろう。現代社会を象徴的に切り取った問題提起を、どのような形で行うのだろうか。楽しみである。

(評価:★4)

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