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[コメント] サイドウェイ(2004/米=ハンガリー)

アレクサンダー・ペインは前作『アバウト・シュミット』同様、コミカルかつ味わい深いロード・ムービーを再び生み出した。ラストシーンの余韻をより長く味わうため、劇場を出たらワインを飲みたくなった。(2005.5.29.)
Keita

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 「ピノ・ノワールは育てるのが難しいぶどうだ。皮が薄くて繊細、性格は気まぐれで早熟。ピノはとても手がかかる」「この品種を栽培できるのは世界でもほんの限られた土地だ。誰よりも忍耐強く、心を込めて世話してやればピノは育つ。可能性を信じて時間をかける者だけが栽培できる品種だ。そんな人間にめぐり合えば最高のピノが開花する」

 ―マイルスが夜中にマヤに語ったピノ・ノワールについての話。ワインの味わいを人生に重ね合わせたロード・ムービーであるこの映画だが、上に記した台詞があったからこそラストシーンにも味わいが出たのだ。要するに、マイルスはピノ・ノワールであり、マヤはそれを育てる人間なのだ。可能性を信じて時間をかけてこそ、最高のピノが開花する。そう、マイルスとマヤの関係も、マイルスとジャックの旅が終わってから時間を、ラストシーンにてようやく結ばれる。ピノという品種のことを考えると、ラストはハッピーエンドしかあり得ないし、僕はそうなって欲しいとずっと願っていた。

 そして、そのラストシーンだが、マイルスがマヤの家のドアをノックしたところで画面は暗転する。そのタイミングが絶妙なのだ。僕が願っていた通り、ハッピーエンドで映画は幕を閉じるわけだが、マイルスとマヤが抱き合って喜ぶ姿はわざわざ見ないでもわかる。それを見せてしまってはあまりにハリウッド的で、安易である。観客の想像力に任せ、ドアをノックしてドアが開きそうな瞬間という締めくくり方によって鮮やかに余韻を残す。この余韻はワインの味わいとでも言うべきか。素晴らしいエンディングだと思う。僕は『スケアクロウ』のラストシーンを思い出した。

 劇場を出たあと飲みたくなったワイン。飲んだのはカリフォルニア産のピノではなく、よくあるトスカーナ産のキャンティでした……

(評価:★5)

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