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[コメント] マイ・ボディガード(2004/米=メキシコ)

哀しいアンチ・ヒーロー、デンゼル・ワシントンと、トニー・スコットが捉えたメキシコ・シティ。これらふたつの効果がマイナス面を埋めるほど絶大。
Keita

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 デンゼル・ワシントン、魂の復讐劇。邦題の『マイ・ボディガード』は女性客にそっぽを向かれないために仕方なくつけてしまったであろうタイトルと予想できて、あまり良い邦題ではないと思う。デンゼル・ワシントン=クリーシーの中盤以降の行動を見ていると、原題通り“Man On Fire”=燃える男なのだ。彼がアカデミー主演男優賞を受賞した『トレーニング・デイ』での悪徳警官役に衝撃を受けた人ならば、今回もそれと並ぶ衝撃を受けることだろう。

 強烈な印象を与えるクリーシーの復讐には、神がかり的な部分がある。希望を与えてくれた少女・ピタが殺害されたと知ったことを機に、手段を問わず徹底的に裁きを下していく。クリーシーは聖書を愛読していることやピタから貰った聖ユダのペンダントを胸にしていることなどから、この映画には宗教的な要素が感じられる。哀しみを胸に冷酷になって裁きを下していくクリーシーの姿は正義と悪、両方の側面を持つ“アンチ・ヒーロー”。そのキャラクターに、ワシントンが魂宿る演技で息を吹き込む。レイバーンが言う「彼は死の芸術家だ」という台詞にも納得できる。

 クリーシーが裁く悪の存在をより助長しているのが、メキシコ・シティという場所だ。『スパイ・ゲーム』などの近作でトニー・スコットがこだわり続けているざらついた映像が、悪が蔓延る都市の雰囲気を表していた。原作からの舞台変更によって、トニー・スコットの演出がより力を発揮できたのではないだろうか。メキシコが舞台ということもあり、オーソン・ウェルズの『黒い罠』と似たものを感じた。『マイ・ボディガード』はある意味では現代的なフィルム・ノワールかもしれない。

 しかし、クリーシーとピタとの交流の描写や、殺されたと思ったピタが結局は助かってしまういかにもハリウッド映画らしい結末など、クリーシーの感情の流れが不自然に感じられてしまうことも多い。ブライアン・ヘルゲランドの脚本は台詞のひとつひとつを見ると巧さを感じるが、ストーリーの流れを見るとある種の制約を感じざるを得ない。それを考慮すると、トニー・スコットはハリウッド映画という枠組みの中できちんと仕事をした。ラストシーンもワシントンの見事な表現力と、空が広がる橋の上を捉えた映像によって、しっかりクリーシーの哀しさを画面で語っている。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)プロキオン14 甘崎庵[*]

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