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[コメント] たそがれ清兵衛(2002/日)

何も無いシーンの中にも何か起きそうな期待感や不安感が満ち溢れている。この映画のとしての安定感は大したもんだ。
Myurakz

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 オープニング、家路を急ぐ清兵衛の姿に「たそがれ清兵衛、と呼ばれていました」のナレーションが被さり、同時に二胡の曲が響き始める。そしてタイトルが大きくその姿を現す。描かれる人物は生真面目でつまらない小役人、しかもそのあだ名も揶揄されたものに過ぎないのに、何故かここには「何か起きそうな期待感」が満ち満ちています。僕はもうこれだけで物語にグイッと引き込まれ、またその安定感に早くも安心をしてしまいました。「あぁ、これはちゃんとした映画なんだ」って思える良いオープニングだと思います。

 そしてその“何か起きそうな気配”は、物語が続いても途絶えることはありません。御家騒動と明治維新という「描かれない激動」が物語の背後で着々と煮詰まっていることがあちこちで顔を出し、優しく慎ましやかな日々の暮らしが丁寧に綿密に描かれれば描かれるほど、その日々の暮らしの危機がジリジリと迫っていることを観客は意識せざるをえなくなる。

 だからこそその暮らしが本当に切なく、本当に掛け替えのないものとなるんです。多くを望まない清兵衛の志が共感を生めるようになるんです。そう思うと、薪の枝を落としたり飯を食ったりという小さな部分にまで生を宿した細やかな演出が、本当に無駄のない描写なんだという気がしてきます。どっしりと根を下ろした安定感のある作品でした。

 ただし朋江との恋愛パートは、その中においてもちょっとお伽噺的に過ぎる気がします。やるせないくらいに小さな幸せを固持しようとする物語の中において、あそこだけちょっと予定調和の匂いがするんですよね。戦いに勝って石高も増え、しかも才色兼備の嫁さんまでもらっちゃうエンディングでは、最終的にはサクセスストーリーになっちゃうんじゃないかと。まぁだからこそ3年後の戦死っていう落とし所を付けなきゃならなかったんでしょうけれど、映画内時間における堂々たるハッピーエンドはちょっと切なさを薄らげてしまっており、嬉しい反面寂しくもありました。

(評価:★4)

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