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[コメント] 戦場のピアニスト(2002/英=独=仏=ポーランド)

それであなたは誰に何をしたの?
Myurakz

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







映画としての構成や美術は大したものだと思います。決して駄作だとは思わない。むしろいい映画だと思いますよ。でも好きじゃないんです。映画だからこそ、好きじゃないんです。

この主人公、なぜにここまで受動的なんでしょう。降り掛かる災いに真っ向から逆らうわけでもなく、ただ人々の好意にすがり、その人たちが身を呈して匿ってくれている時間を淡々と過ごす。その人たちが危うくなると泣きながら次の善意の人を探す。ユダヤ人警察の人間だろうと、自分の家族を殺めたドイツ軍の人間であろうと、匿ってくれる人は選ばない。

それでいて結局ドイツ軍将校を救うことができたわけでもない。じゃああなたは何をしたの? あなたを助けてくれた人たちや、あなたの代わりに捕まり、あなたの代わりに死んでいった人たちに何をしたの? 彼はただ震えて逃げ続けていただけのように見えるんです。

実際ピアノへの情熱もそれほど描き込んでいるわけでもなく、ドイツ軍将校との交流が描いてあるわけでもない。ただ主人公の「生きたい!」という気持ちだけが2時間以上描いてある。

実話だからしょうがないと言えばしょうがないんです。僕だってその状況になったら、泣きながら逃げ続けるだけなんじゃないかな。「生きたい!」と言ってる人に、それ以上の行動を望む権利は誰にも無いんです。でもそれをわざわざ映画にしてまで観たくない。僕が映画で観たいのは、むしろそこで人間の尊厳を守ろうとする人たちなんです。自分じゃできないかも知れない行動を取って、自分を勇気づけてくれる人たちなんです。そういう視点で考えるとこの映画、僕にとっては「手に職があると良いことが多いね」っていう映画にしか見えなかったんです。

監督のポランスキーも収容所で母を亡くすなどの酷い経験をしてきたとのことです。現場にいた人間には現場にいた人間にしかわからない想いがあるのでしょう。ナチスへの絶えざる憎しみや、戦争への深い忌避感もあるのでしょう。ただ今作の場合、その想いが逆に映画の軸をブレさせてしまった気がしてなりません。実話ベースの話を監督が実体験に基づいて撮った映画に対し、こういうことを言うのは非常に申し訳ないし抵抗があるのですが、僕にはその想いが伝わってこなかった気がします。

(評価:★2)

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