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[コメント] 日本のいちばん長い日(1967/日)

戦争という触媒を通して混沌となる狂気と常識。
Myurakz

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 戦時中の狂気と言ってもやはり常人の為すもの。歴史は僕らの想像し得る範囲の“各々の正義”を軸として複雑にその流れを形作る。その瞬間瞬間に垣間見える“常人であるが故の狂気”、これこそが最も高潔で、それ故に最も厄介な代物なんだろう。個人的には黒沢年男の「狂気を演じますよの演技」はやり過ぎ感があって苦手だったんだけど、それぞれの人物の行動理由は明確に理解の範疇内に置かれていて、それが物語の持つ腕力となっているように思う(ただ天本英世だけは一人普通に狂ってて、それもまた良い)。

 岡本喜八自身はこの人々の中の誰を狂気として捉え、また誰を常人として捉えていたんだろう、なんてことを考えた。剛胆且つ冷静に見える三船敏郎でさえ戦時の狂気というものから自由であったわけではなく、だからこそ最後には黒沢らと同様に自死の途を選ぶ。またこの映画では「戦争を始めた人々」という存在が微妙に判然としない語られ方をしていて(だからあまり悪人がいない)、それが狂気の存在を一層混沌としたものにしているように思った。

 あと侍従に渡した原盤の所在を詰問されるNHK職員の加東大介。「お、これは男の見せ所だ」とか思ってたら、「侍従の方に渡しました!」「もっと鼻の大きい方だったと思います!」なんてハキハキと白状しちゃって「えー」って思った。ただ考えてみればそりゃ当たり前の話で、だからこそ平和ボケした現代人である僕は共感しつつションボリしてしまった。でもホントそりゃそうだよ。それこそが“常人”だ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)ぽんしゅう[*] おーい粗茶[*] けにろん[*] tkcrows[*]

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