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[コメント] 127時間(2010/米=英)

ダニー・ボイルはいつも「小上手い」。ダサあざとくも小上手いから、こっちはついついその手に乗せられてしまう。
Myurakz

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 冒頭、自転車で派手に転倒した自分を笑顔で撮影するアーロン。僕らはここで「彼がちょっとくらいの困難は笑って受け入れられる」強い人間だということを知らされる。そして女性2人をガイドするシーンでは、「彼がこの場所の隅から隅まで知り尽くしたベテランであること」を分からされる。説明シーンと言ってしまえばそうなんだが、このシーンが独特の色やテンポ、音楽、それに忙しいカット割りと画面三分割なんかでスピーディかつ"おしゃれ"に描かれるから、観客はあっと言う間に状況とキャラクターを把握させられてしまう。この辺りは本当に上手くて、「男が5日間岩に挟まっている」という地味なお話の映画化にあたり、如何にしてダラけさせずにラストまで突っ走るかがよく考えられている。十徳ナイフを忘れる伏線の表現も同じことだ。

 ただダニー・ボイルがダニー・ボイルらしいのは、そこの"おしゃれ"が何というか、常に軽く安い感じをまとっているところだと思う。あぁこれ何て言ったらいいのかな、「できるだけ多くの人におしゃれと思ってもらえる線を狙い撃ち」みたいな感じがすんのよ。で結果的に安さが伴う。僕はこの安さは嫌いではない、というかむしろ「安いおしゃれに弱い不特定多数」の真ん中にいる人なので、「ダサッ!でもカッチョいい!」とか言ってウヒウヒできるんだけど、やっぱり見る人が見たらダメ出しされるんだろうなという、そこはかとない不安感を抱いたりもするんだ。

 実際今作がアカデミーにノミネートされたのは、この冒頭の軽さを忘れさせるくらいの後半の重みにあるんだろうけど、この重みもまたこの人の「狙い撃ち」の範疇だかんね。「スタイリッシュっぽく」とか「アカデミーっぽく」とか、そういう「雰囲気の模倣」に長けた人だから。極端な話、僕なんかは前半のインチキオシャレの方が好きだったりするわけで、だいたい途中の「大雨の浮力で脱出妄想」とか、ちょっと空回りしてた気さえする。

 ただそれでも尚、この動きに欠ける物語をここまでテンポよく一気に描ききった腕力は賞賛に値するし、そこで中だるみを見せなかったことがラストのヘリシーンの高揚に繋がっているんだと思う。もう『プラトーン』かと思った。120分でも普通に描けた脚本を、90分まで圧縮した作りはとても気持ちが良かった。

 あとジェームズ・フランコの人懐っこい笑顔はいつ見ても反則だと思う。これ『スパイダーマン3』のときも思った。映画に対する好感度が3割くらい上がっちゃうんだよ。例えばケビン・ベーコンとかが演ってたら、これ点数ちょっと下がるよ。いやケビン・ベーコンはいい俳優です。だからこその話で言っているのです。

(評価:★3)

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