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[コメント] グミ・チョコレート・パイン(2007/日)

狙ってそうしているのかどうにも判然としないんだが、「見るに耐えない痛い瞬間」というものが絶妙なサジ加減で回避されている。それが不足でもあり心地よくもあり。
Myurakz

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 もちろんこれは原作との比較という視点も混じってのことなんだけれど、いずれにしてもこの映画版ではそんな「若気の至りの痛々しさ」が“事象としては描かれつつ”、“感覚としては回避されながら”、作られているように思えた。もちろんだからといって今作に出てくるあれやこれやが他人事かと言えば全くそんなことはないわけで、ただ描き方でそれを上手く避けているんだ。

 判りやすいイメージで言うと、主人公の父親の描かれ方がそこに近い。昔自分のギターをくれた父親が、今ではすっかりボケてしまい会話も成立しなくなっている。これって本当はかなりキツい話なんだけど、この映画において父親は完全にお笑い要員として配置されてしまっている。そしてそれを裏切らず抜群に面白い。この面白さ故に「ボケてしまった厳格な父」というキツいトーンがすっかり払拭されてしまっているんだ。

 この方法で回避されているのが、主人公の“若気の至り”の痛みなんだと思う。「盗品である好きな娘のブルマを更に盗み、しかも自分に負けてオナニーにふける」なんて最高に痛いシーンだ。30年後に思い出しても余裕で死にたくなる瞬間だと思う。にも関わらず、あそこに初ライブのシーンを被せることでその痛みは消え、何となく距離感の保たれた「バカバカしいけど良いシーン」になってるんだ。

 ここの少し前、山口美甘子の「何で追い掛けてきてくれたの?」の問いに、主人公がウソの答えを言ってしまうシーンも同じだ。本来ならあそこは主人公の焦りと葛藤がモロに出てくるはずのシーンだ。しかし今作はそこを深くは描かない。あくまでサラリと処理し、むしろその後の踏切での展開に重きを置く。だから何とも甘酸っぱくほろ苦い青春の1ページとして仕上がっている。

 誰しも身に覚えのある若気の至りの痛々しさって、本当はこんな軽いもんじゃない。思春期男子の恋愛と性欲が絡めば、その激痛たるや身悶えして地団駄を踏んでも尚消せないくらい切腹モノの激しさだ。僕はこの映画にはそれくらいの激痛を期待していた。などと言いながら「何で金払ってそんな思いせにゃならんのだ」という当たり前の感覚もあったりして、結局ここに着地してくれたことに少しホッとしていたりもするんだ。原作を映画なりに再構築して、楽しみながらしんみりさせてくれる良作。それでもう満点だしそれ以上はちょっと怖いじゃないか。そんなものは寝る前にふと思い出しちゃって枕に突っ伏すくらいで充分なんだよ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)林田乃丞 づん[*]

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