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[コメント] 交渉人 真下正義(2005/日)

面白かったって気持ちと同時に、やっぱり惜しかったって気持ちが湧いてくる。あとひと練りが出来ていれば名作の仲間入りだったんだろうねぇ。もうここまで出来てるのに勿体ない。
Myurakz

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 電車、映画、音楽など、観客の興味を惹き続けられるだけの多くの小ネタを多岐に渡って用意し、それをノンストップでブチまけていくかのような展開を見せてくれる今作。そりゃ当然飽きもこないし面白いです。ただそれを練り込むだけの時間がなかったのか、多くの小ネタたちが上手く物語に溶け込まず、ただ素材のままゴロゴロと転がっている印象を受けるのもまた事実。でもホントにそれを許せちゃうくらい充実していてテンポがいいんだよね。ある種「特化した映画」という言い方も出来るのかも知れません。ネタを集めて一つの話に収めていくだけでもかなり大変だったんじゃないかな。

 ただ個人的にはそれでもなお目を瞑りづらい点が二ヶ所ばかりありました。その一つは「爆弾とクモの相関性の薄さ」です。フリーゲージだの脇線だの線引き屋だの、あれだけ地下鉄の面白さで観客の興味を引っ張っておきながら、最後の最後で「あれはダミーだったのです」ではちょっとツラい。ダミーならダミーでもいいんだけど、地下鉄をダミーに選んだなりの理由付けがないと、物語が一瞬切れるのと同時に観客の集中も一瞬途切れてしまうんです。雪乃さんの危機やボレロの絡ませ方からコンサート会場に焦点を移すのは仕方ないとしても、できれば「地下鉄が近付くことで爆発する」に絞ってクライマックスを迎えて欲しかった。そう考えるとやっぱりシンバルは蛇足な気がします。

 そしてもう一点は「地下鉄に爆弾を積んでいないと看破する理由が勘であること」。あぁいう形でオチをつけるためには、その前に「主人公が冷徹なまでの理論構築でクールに犯人と対峙していく」過程が必要なんです。それがあって初めてラストの「勘です」に人間的な味わいが感じられることになる。だけど今作の真下は終始そこまでクールじゃない。むしろ最初から勘で物事を解決しそうに見えるくらいコミカルです。そんな彼が理論で犯人を追いつめるのが楽しい作品なんだから、最後の最後に勘を持ってきても“効かない”んですよね。あそこはもう一度(多少無理矢理でも構わないから)冷静な理知的判断を持ってきて、観客に「やっぱりスゲぇ」と思わせて欲しいところでした。

 この辺りの垢抜けなさが時間的制約によるものなのか、はたまた脚本家の能力の限界なのかはわかりませんが、「面白かった」と讃えたいと同時に「ここまで来てるのに惜しかった」と発破をかけたくなる作品でもあったように思います。完成し切れるだけの材料は揃ってるのにね。いい作品にはなってるだけに勿体ない。

(評価:★4)

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