[コメント] 雲のむこう、約束の場所(2004/日)
自分の世界をより理想的に表現したかったら、アニメというのは最良の手段のひとつではないかと常々思っている。「演技」というリスキーなものは排除できるし、終始、観客の視点を第三者的に維持できる(実写だと観客の思い入れが偏りやすい)独特の構成が可能だからだ。この作品は我々を最後まで傍観者にさせてくれる。まさに「絵空事」の世界である。押井監督が実写への片思いを常に続けているのとは対照的に、新海監督はアニメというものの力を全身で信じているかのようだ。
しかし、今回。突き放した内容にも関わらず、観客に媚び諂う部分が私には居心地悪かった。「夕焼け」を多用したノスタルジックな「遠景」シーンは良いとしても、その広大なイメージと裏腹に展開される物語は狭小な部分ばかりがクローズアップされる。国家規模の戦争に関わっているのはまるで両手に余る人の数だけのような印象しか残らない。各人、「世界に取り残された私」と思うのは構わないが、その背景とのバランスが実に悪いのだ。相変わらず監督の個人作業の力技には驚嘆しかない。しかし、その個人の強い思い入れがバランスを悪くしているのも否めないのだ。
国家の存亡が、20歳に届くか届かないかの若造たちに委ねられる。この世界には家族のために汗水垂らす父親や子に愛情を尽くす母親、未来を夢見る幼子たちなど、ひとつの国を支えている市井の人々の姿が見えてこない。優れた作家というものはわざわざそんな画を見せなくともそういう温もりを我々に感じさせてくれる。彼の作品にはそれが足りない。むしろ、それだけが、と言ってしまっても良いくらいの才能なのだから、次回からはちゃんと自分の目で現実社会を見据える(他人の意見にも耳を貸す)べきだと、私は思う。
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