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[コメント] 緑色の部屋(1978/仏)

緑。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「人間は2度死ぬ。最初は肉体的な死で、死後人々から忘れられたときが2回目の死だ。」

これは有名な言葉なのだろうか?真っ先に思い出した。

緑色とは何かについて思いを廻らせた。もちろん主人公の家の火事になった部屋は緑色だ。また、廃墟を改築させて作り出した空間に数多く並ぶ蝋燭の「林」のイメージだろうか。もっと象徴的に考えるとどうだろう。やはり緑から思い浮かぶのは植物しかないし妥当だ。他ではこじつけになってしまう。植物の緑。木、草、葉、苔、林、森・・・それらの緑は全て生命の証。枯れている=死では緑ではない。『となりのトトロ』の世界も連想した。***彼の中の死者という植物はあの空間の中で、そして彼の心の中ではまだ生き続けていて、緑色で葉が生い茂り森林を形作っているのだ。

監督トリュフォーが生まれる以前の時代設定。『野生の少年』に酷似した家庭像。自ら出演するトリュフォー。

主人公の人生のベクトルは疑いなく完全に後ろ向き。彼は過去に対して歩み、生き、話し、呼吸している。記憶が全てだ。『鬼火』とまではいかないものの非常にペシミスティックな人間に見える。死者だけに忘れないという愛を注ぎ込み、生きている人間には全く関心を示さない。しかも自分と同様の考えを持たぬ者は悩みなく排除する極端な姿勢によっていっそう生者の世界と隔絶し孤立している。

死者への愛と生に対する絶望。

死者は死者であり、存在せず、したがって死者を見る人間の主観によってのみ彼らのイメージなり性格なりが決定される。頭の中で完璧な人間も存在しうる。また、死者は変わらない。全て完結していて自分を裏切るような事もしない(cf.主人公を裏切った親友。妻の死後すぐに結婚した男)。主人公は自分の中で死者を悪く言えば美化し、反対に豹変への恐れから現実世界に躊躇している。別の視点から見れば、彼にとって自分が愛している限り死者は永遠の存在であり、現実世界で誰かを愛せばその人の死を無意識に恐れてしまうのだ。

▼自己愛と孤独、死に対する憧れと忘却の恐怖;記憶

主人公が自分の蝋燭に付いて言及するシーンがある。ラストではセシリアに自分の蝋燭を作ってもらう。彼と現実世界との関わり合いは彼が死んだあとから始まる逆説的な構造。彼は常に死者だけでなく自らの死についても深い考察があると思われる。恐らく主人公には最愛の妻と同じ場所、同じレベルに立ちたいという死に対する興味、ささやかな憧れがある。同時に彼は自分の死後人々から忘れ去られるかもしれない恐怖感もある。誰も自分のように死者を深く敬う人間がいる保証もないし、実際見つけられずにいるのだから。

ラストの主人公の死は自殺とも取れる。セシリアに対し「あなたと私の間には何もなかった」と最後のセリフにあるように頑なに生者と関わり合いを拒み、自分の性格や性質を決して表に出さない態度。彼は自分の死後、他人から死者として愛されたいのだ。そのために生きている間は自分を曝け出さず、悪い印象を与えず忘れられないようにしている。ぼろが出るからか・・・。とにかく死を自己完結化している。自分だけの世界に生きる主人公は(『サムライ』も同様)完璧主義であり、自己愛的である。死後のイメージ維持、形成のためには孤独もやむなしなのだろう。

▼小説「ノルウェイの森」と重なる部分が多い。現在よりも過去に---誰かの死によって始まる---心がある人物像。死者への愛情と人生に及ぼした影響。過去、記憶を引きずる生きかた。『緑色の部屋』も「ノルウェイの森」も非常に繊細で機微がありどちらも好きだ。両者の決定的な違いは前者がペシミスティックな点にある。主人公が生の世界に様々な恐れや絶望感を抱いて最後まで死に拘るのに対し、「ノルウェイの森」の主人公は現実世界と関係を持ち混乱を極めながらも、最終的には生、或いは性に結びつく。後者は誰かの死に対する記憶に縛られながらも成長があり、現実的だ。

*この作品を果たして私は今観て良かったのだろうか?良いも悪いもないし、既に観てしまったので遅いけど。もっと年を取ってからの方がタイミングが良かったのかもしれない。というのは、幸い自分の周りでは家族以外誰も亡くなっていないから。例えば親しい友人や好きな人が突然亡くなったら一体自分はどうなってしまうのだろう。想像がつかない。以前誰かとこんな会話をした。

「俺の同級生はまだ誰も死んでないけど」「俺のもまだだね」「でも今俺らの年齢で誰か死ぬとしたら絶対普通の死に方じゃないよね」

時折、誰かの、自分の死について考えて準備しておいてもどうかなるものではないのだろうか分らない。ただ、忘れ去られたくはないかも。

(評価:★4)

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