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[コメント] ダウン・バイ・ロー(1986/独=米)

右往左往。(レビューはラストに言及)
グラント・リー・バッファロー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







脱走するシーン、普通はある場所から逃避する行為であるために、登場人物の進行方向は同一の方向に動くように撮られていく(例えば左から右に動いたら、他のカットでも左から右に移動させる)。しかし、本作では登場人物たちは画面の右から左に動いたかと思うと、次のカットでは左から右へ移動する方向が変わるところが何度かある。これによって観ている側は、彼らが何かから必死に逃げているという感覚よりも、むしろ迷っているという感覚を味わう。右から左へ、やがて左から右へ、そうした画面の流れは冒頭の横移動の構図から一貫して示されている。おそらくジャームッシュはそうした構図を表層的に利用しているわけではないだろう。何かの目標に向かって一直線に進むというよりは右に左に迷いながら歩んでいく、生きていくというのは案外そんな感じなのかもしれない。社会の肯定ではなく世界と人間への肯定。ジャックとザックはそれぞれ左の道、右の道へと分かれていったが、彼らが世界に投げ出された右往左往する存在である限り、また世界のどこかで出会うのかもしれない、そこはおそらく世界の真ん中、ロベルトがウサギを焼いている。

*前作の『ストレンジャー・ザン・パラダイス』ではスクリーミン・ジェイ・ホーキンスの歌が響き、次作の『ミステリー・トレイン』では彼自身が登場している。それに対して、本作では彼の存在がないと思っていたら、あの<アイ、スクリーム>のシーンが。ジャームッシュといったらスクリーム?

*逃げる側だけではなく、追っ手が描かれているものとしては、『デッドマン』を参照。といっても、味わいはそれほど大きく違わない。右往左往しているのだから当たり前か。

(評価:★4)

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