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[コメント] 紙の月(2014/日)

与えること
グラント・リー・バッファロー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







どう転んでも倫理的にも論理的にも支持のしようがない主人公、しかし作品の終盤、この主人公が思春期から抱き続けた心中−それは冒頭では曖昧に映し出しされていた−にぐぐっと迫力をもってピントを合わせてきた。そこで映し出されたものは、孤独な中年女の悲しき妄執ではなく、まったく思いも至らぬ孤高の価値観であった。

五万円の寄付が集まらないために、父親の財布から金を抜いて五万円を一人で調達しようとする主人公の動機と、現在の主人公が若い燕に金を使おうとする動機は同じで、他人に与えることが彼女を満たす原動力であった。他人に与えるためなら、自分のお金であろうと他人のお金であろうと関係はない、というよりもこの主人公に「自分のもの」「他人のもの」という区別はもともとないのであろう、出処など関係なく金があれば彼女は惜しみなくあげたいと思った対象に与える。その対象が自身の夫でないのは、この夫は彼女から見れば既に満たされ自己完結しているからだろう。「時計」のエピソードがそれを決定づけたように感じる、彼女は自分自身が与えられることを求めないし、与えたことへの効用が得られない相手には見向きもしない。

「壊れている」といえばそうなのだろう。現代の鼠小僧なのかというと微妙に違うような気がする(彼女の行為は少なくとも義に基づいてはいない)。バブルが崩壊し金銭や所有感覚になおいっそう縛られた地続きの現代社会(小林聡美がそのあたりをすべて引き受けてくれたような気がする、熱演だった)を突き放すかのように彼女はガラスを破り、どこまでも逃げていく。そこに今まで見たことのない、どうにも割り切れず得体のしれない、でも何かエモーショナルなものが映し出されたような気がした。

(評価:★4)

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