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[コメント] 父、帰る(2003/露)

野心作は古典のふりをして近寄ってくる。
グラント・リー・バッファロー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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母と娘の葛藤のドラマは、娘が母の過去の心情などに触れることによって相互理解の形をとっていくことが多い。それに対し、父と息子の葛藤は父が息子の前に立ちはだかり、やがて息子が父を乗り越えていくという形をとる。本作はこのようなドラマツルギーに則っているという意味で古典的である。

とはいえ、本作から匂いたってくる空気は尋常ではない。あの不穏な空模様に体現されているが、画面全体が緊張感に満ちている。

本作はあくまで一貫して息子の視点から描かれている。ほんのちらりと見え隠れはするのだが、基本姿勢として父の内面や過去についてはけっして描かれない。母と娘の愛憎劇ではないのだから、乗り越えるべき相手の中味はさほど重要ではないのだろう。息子の前に立ちはだかってくる今現在の父の姿こそが重要なのである。

ただし、こうした父と息子の葛藤そのものが既に過去になってしまっていることを、ラストの写真は物語っている。(ひょっとしたら父が取り出したあの箱の中にはこれらの写真が入っていて、ストーリー全体が入れ子の構造をとっているのかとも思ったが、それはつまらない邪推にすぎないだろう。)残された息子たちは父の内面に思いを馳せることなどはなく、ただ冷たいモノクロの写真だけが彼らに残される。台湾のチャン・ツォーチ同様、新作を期待したい才能がまた出現した。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)さいた フェデラー TOMIMORI[*] ツベルクリン[*] 水那岐[*] セント[*]

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