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[コメント] 家路(2001/仏=ポルトガル)

ぬぼーとしているようで実は抜けめのない作品なのやらどうやら。(レビューはラストに言及、レビュー一部改編、11/10/03)
グラント・リー・バッファロー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







当初予想していた内容とはまったく違っていた。大切な者の喪失をどのように乗り越えていくか、という問いのなかには収まりきらない作品であった。

まるで妻と娘夫婦の事故死などなかったかのように、主人公の周りには次々と様々な出来事が生じる。もちろんあの悲惨な事故がなければ孫と二人住まいをするということもないので、設定自体は活きているのだが(とはいえ、孫にとって父方の祖父母も健在で、必ずしも孫を経済的に支えていかなければいけない状況でもない)、主人公の悲しみの表情などが画面に映し出されることはほとんどない。またエピソードの数々は、直接的には主人公の悲しみとは無関係に生じている。その点で、同じ2001年のカンヌ映画祭に出品しパルムドールを獲得した『息子の部屋』とは類似した設定でありながら、蓋を開けてみると両者はまったく異なるベクトルを指していると言える。

『息子の部屋』では日常になかなか戻ることのできない主人公の苦しみが描かれているのに対し、本作の主人公は役者として日常を淡々と過ごしていく。同じくカンヌで評価された『ユマニテ』などはテーマからの逃亡としか思えないのだが、本作についてはそのような印象はもたなかった。というのもエピソードが重ねられていく際の不思議なテンポ、映し方、そして妙なユーモアと軽さのようなものが、間接的にテーマについて何かしらかを語りかけるように見えたからなのだと思う。

例えばあのラストシーンにしろ何かふわふわした印象がある。あれはすわ痴呆が始まったのか、それとも孫を精神的に支えるという思いや孤独との関係などと混ざり合いながら役が日常に侵食してきたようにも見えるし、また単純に役者魂に火がついて夢中になっている風景を軽妙に描いているだけのようにも見えなくもない。

この監督(90を超えるご高齢ということぐらいしか知らないが)、『息子の部屋』を観た後にこんなことを言うかもしれない。「ふむふむ、モレッテイ君はそっちできたか。」この監督自体ボケてしまっているのか、ボケているふりをして実はかなり抜けめのない人なのか。おそらく私には後者のように思われるので、退屈はしたがこの点数にしておく。

*やたら長く挿入される演劇や映画のシーンそのものの背景を知らないというのは、かなりのディスアドバンテージだったのだろう。

(評価:★3)

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