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[コメント] ソイレント・グリーン(1973/米)

モンタージュで大量生産・消費・廃棄の「豊かな」社会の勃興を物語り、階段に折り重なる群衆の姿で、挙句に、人間ばかりがいっぱい、というその皮肉な末路を仄めかす。一番面白いのは、有名な結末よりこのオープニングか。(2011.8.10)
HW

**ネタバレ注意**
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 たとえば、ハッとさせられるのは、立ち入り禁止の処理工場の検問所で、往復するトラックの運転手が平然と交代するシーン。自分に与えられたレベルの業務をなんの疑いもなく受け入れ、その先の作業を知ろうともしない、そんな近代的組織の論理が象徴的に描かれていて、映画の世界が、われわれと地続きの、しかし、何かが一歩壊れてしまった世界であると伝わってくる。「ホーム」の雰囲気にしてもそうで、全体の偽善的なムードは描かれても、陰謀組織的な描かれ方をしていないのはいい(実際、あそこの一般職員たちは「好きな色」を選ばせたりと決められた手続きを処理しているだけだろう)。

 逆に言うと、どうしようもなくつまらないのは、工場へ忍び込んだチャールトン・ヘストンを見つけて職員たちが取り押さえようとする、といったようなくだり。ベルトコンベアの前に立つヘストンを見かけても、こういう仕事の人もいるのか、とばかりに平然と通り過ぎでもしたほうがよっぽどディストピア的だっただろう。一方で、いかにもな黒幕的な人々が画面にチラチラとだけ登場し(主人公の前には現れない)、もう一方で、やっぱりいかにもなチンピラA・Bが主人公をケチ臭く追い回すので、二重の意味で安っぽい陰謀モノに堕してしまっている。名を残すのは理解できるが、いまなお見るべき傑作と呼べるかは疑わしい。「ソイレント・グリーン」のアイディアにしても、「いまに食用人間の飼育が始まるに違いない」と語られるが、そもそもその飼育をするためにはエサにソイレント・グリーンが必要になってしまうし、原作は未読だが、一発的アイディア先行の感が否めない。死に行く人類の描写を期待したところで、『トゥモロー・ワールド』のような、本作以上の荒唐無稽さをリアリティと両立させた傑作が登場したいまとなっては、だいぶ見劣りしてしまう。

 それにしても、未来のチャールトン・ヘストンは、なにかといえば、驚愕の真実を前に嘆き叫ぶ人だったのですね。『ボウリング・フォー・コロンバイン』でゴニョゴニョと言葉を濁したまま画面の向こうへと力ない足取りで消えて行ってしまう(現実の未来の)彼の姿が妙に印象的なのには、ちゃんと映画史的な理由(伏線)があったわけだ。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)Orpheus 3819695[*] DSCH 水那岐[*]

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