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[コメント] ハウルの動く城(2004/日)

天才語り部、宮崎駿はどこへいってしまったのか……。(2004/11)
秦野さくら

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







久々に、映画館で過ごす時間がとてもしんどく長かった。まさか、宮崎作品でこんな悲しい時間を過ごすことになろうとは思いも寄らなかった。非常に悲しい。

映画が終わってから、自分なりになぜそう感じたのか、考えてみた。すべてはストーリーと人物の構築に問題がある。

1.物語の帰着点が見えない。主人公がどこへ向かい、何を見出そうとしているのかがなかなか見えてこないため、ストーリーにおける興味の持って行き所を失ってしまう。少女は老女になったことをそれほどマイナスに考えることもなく、前向きである。まあ、それはそれで面白いとは思った。では、その負の気持ちを使わない変わりに、その少女はこの物語において、「何を目指していくのか」といえば、それは明確に示されない。だから観ているほうは、途方にくれてしまうのだ。それでははっきり言って物語に命が吹き込まれていないのも同然だ。こんなに、主人公の目的意識が無い宮崎アニメがいままであったろうか?

2.「偶然」や、意味の無い行動が多すぎる。百歩譲って<1>を肯定したとしても、物語の進行における重要な転換トピックスが偶発的に起きることばかりだ。「突然」魔法かけられて、「当てもなく」山に向かったら、「偶然」案山子に会い、泊まる所をもってきてよと「その気無しに」言ってみたら、「まさかホントに」動く家を持ってきてくれて、それが「実は」ハウルの城で、「なんと偶然にも」ちょっと思いを寄せていた人が家主だった・・・・・・なんだろうか、この手抜きなストーリーの構築は。そんなご都合主義のイントロで、物語の世界に入っていけるだろうか。この傾向は全編に渡って感じられたが、ハウルの子ども時代について知るくだりには怒りさえ覚えた。こういう場当たり的な場面作りは、いままでの宮崎作品の中ではちょっと思い当たらない。

3.物語の「結」がきちんと描かれていない。悪く言えば投げやり。大風呂敷を広げ、たくさんの問題提示をしてはみたものの、「実はとなりの王子でした」「じゃあ戦争はやめようか」的な、いい加減な締め方。終わり方、2回くらいイスからずっこけそうになった。とりあえずなんとかまとめればいいってものではない。

4.本筋と直接関係の無いディテールについてはこと細かに面白く描かれているが、全体を通じて重要な部分のストーリー作りこみがホントにいい加減。裏を返せば、細かいトピックスの寄せ集めであり、前出の場面が複線になっていない。これの全編に渡って感じたことだが、たとえば「私の街が焼けている」ことを、主人公に沿わせる形で観客にぐっとこさせるためには、主人公がその街にどれくらい愛着があるかを示すとか、主人公がいきいきとその町で過ごしてきたかをあらかじめ見せておく必要がある。しかしそんな描写は無いに等しい。ゆえに、「私の街」が燃えていることを絵で見せられセリフで言われても、グッとこないのである。2人の恋物語にしてもしかりである。きちんと感情線を繋ぐようなトピックスの構築の仕方をしていないために、非常に突発的。こんなことを宮崎作品について改めていうのもはっきり言ってバカバカしいのである。というのも、宮崎さんを天才だと私が思っていたのは、まさにそのあたりのストーリー構築の才能がずばぬけていたためで、それは『ナウシカ』や『ラピュタ』の圧倒的な観客への語り口を観れば分かる。この作品においては、その片鱗もみあたらない。はっきり言って素人が作ったストーリーみたいだ。なぜこんなことになってしまったんだ、と問い詰めたい気持ちで一杯。

5.説明セリフが多い。上記にも通じるところではあるが、例えばいきなり「ぼくは弱虫なんだ」というセリフ。「恋人は弱虫な魔法使い」というキャッチコピーに心くすぐられ、監督がどう描いてくるだろうと楽しみにしていたのだが、なんのことは無い、自分から自分を説明するという安易な方法で示したのみだった。はっきり言って、出だしからちっともハウルは弱虫には見えなかった。(キャッチコピーに使ったことも考えると)どうしても後付け感を拭えない。なぜ人物をコツコツとデッサンしてみせようとするのではなく、安易に設定書を提示してくるのか。こんな手抜き、いままでの宮崎作品にはありえないことだ。

6.ストーリーの支離滅裂さ。王様のところへいくくだりしかり、ストーリーの持って行き方が強引で、つじつまがあっていない。つまり、描きたい「あの場面」を描くために、そこに合うようにストーリーを強引に持っていっている印象がある。<2>に書いたことと通じることであるが。悪者の魔女を引き取るくだりもそうであるが、今回は全体を通した一貫性が乏しく、人物達の立ち居地があいまいで、ディテールを面白くするためには全体のストーリーや設定が多少支離滅裂になってもかまわないといったような感じを受ける。

なぜ宮崎氏は、こんな破綻した、なげやりなストーリーの作り手になってしまったのでしょうか。本当にもうダメなのでしょうか、宮崎氏は・・・・・・。言っておきますが、ここで「ダメ」といっているのは、能力とかそんなもんじゃありません! 小手先なものではなく、いっちょ骨太の凄い作品を作ったろうという「気概」のことです!(泣。

(評価:★2)

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