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[コメント] フレンチ・コネクション(1971/米)

たいへん狂った映画で、そりゃ当時大騒ぎになるわけである。
ペンクロフ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







初見時(子供の頃)は地下鉄カーチェイスの場面が飛び抜けて面白く、あとは地味な刑事映画だと思っていた。おっさんになって観てみると、まあそれも確かにそうなんだけど、根本からなかなか狂ってる映画だと判って気に入った。

刑事に正義がない。ポパイは猟犬のように獰猛な男で、女子供に好かれる要素ゼロ。たまたま刑事をやっているが本質的にはヤクザ。桜の代紋カサにきて、やりたい放題横暴捜査。人種差別もやりまくりのクソ野郎。飲み屋の前で、白いブーツの女に「いいブーツだな」と声をかける場面がある。ヘンな台詞だなと思ってたらしばらく後に、ピンクのブーツをはいた自転車少女をひっかけてセックスまでしている。あっ、こいつ完全にブーツフェチやんけ。ブーツはいた女を見るとヤらずにはいられないのだ。ひどいもんだ。

麻薬王シャルニエの方が、よほど魅力的な人間に描かれている。美人の奥さんへのプレゼントを、渡すまで後ろ手に隠してるのが実にカワイイ。マルセイユ沖の獄門島シャトー・ディフでの密会場面では、船着き場の潮溜まりからホヤを拾い上げ、ナイフで切って食べている。これが実に自然でサマになっている。地中海にもホヤ、いるんだな。シャルニエは港町のマルセイユ育ちなんだろうな。この映画、シャルニエがレストランで高級料理を食い、ポパイが寒い路上でまずいコーヒーを飲む場面がやたら有名なんだけど、食いもの演出はすでにこのホヤ、いや冒頭のマルセイユの刑事の立ち食いピザとフランスパンからすでに始まっているんである。要するに刑事なんて無粋な連中は、うまかろうがまずかろうが手近にあるもんを腹に入れてるだけなんだ。文化的じゃない。シャルニエはホヤを拾って食い、レストランで高級料理を食う。そこにはシャルニエの意志がある。彼は食いたいもんを食っているのだ。人生の中で楽しみを追求するシャルニエこそが幸せな人間であって、刑事なんてまっとうな人間じゃない。ましてポパイなんて猟犬ですわ。ドッグフードですわビタワンですわ。ブーツ女に発情しちゃって腰振ってる野良犬ですわ。やーねえ。

しかしこれ、本当にニューヨークが荒れていた71年にこの映画を観たアメリカ人は、そりゃーもう興奮しただろうと思うのだ。あーそうだよオレたちはどうせバカだよろくなもん食ってねえよ。美食家の気取ったフランス野郎めブッ殺してやる! とブチアガッたに違いないと想像する。シャルニエをグイグイ追い詰めてゆくポパイを、心から応援しただろう。それは労働者階級の英雄、ストーンコールド・スティーブ・オースチンへとつながってゆく、反知性的ヒーロー像だ。

とはいえ監督のフリードキンは一枚上手の性格の悪い男で、なんとシャルニエは逃げきってしまう。ポパイはFBI捜査官を誤射して殺してしまう。これはもうお客さんヒートしまくりだよな。うおおお。殺せ、殺せ。そりゃー無理やり続編が作られるわけですわ。

(評価:★4)

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