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[コメント] 新幹線大爆破(1975/日)

面白いのは着想と、個別にモノマネしたくなる演者の熱演のみ。脚本演出は酷いものだ。
ペンクロフ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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高倉健を悪役にしないための言い訳が1時間ぐらいあり、見られたものではない。言い訳すればするほど、どんどん魅力を失ってゆく。脚本もいいかげんだ。すべてが唐突なんだ。

このヤマがうまくいったらどうする? との問いに、いつ見ても左翼くずれの役ばかりやってる山本圭がいきなり「革命がうまくいった国へ行ってみたい」と赤軍みたいなこと言い出してギョギョギョとなる。彼が今までどのような左翼活動をして挫折したかなど、ろくに描かれていないのだ。まあこれも当時の時代の空気、学生運動の記憶も生々しい観客にはスッと受け入れられたのかもしれない。しかし次がいけません。山本圭が健さんに同じことを尋ねる。健さん「オレか? とりあえずブラジルでも行ってみるか!」 バツン、このシーン終わり。これはひどい。そりゃーしみったれた犯人グループがニューシネマっぽく現実感のない明日を夢みてて人生って虚しいね、でも別にいいんですよ。でも、そういう風にもなってないよな。どうした、この脚本初稿なのか? いきなりブラジルとか言っちゃう健さん、ただの不可解なオヤジだ。コイツ何言ってんだ? という印象だけが宙に浮いて、その後も漂い続ける。

マーでもこれこそが、底抜け監督佐藤純彌の作家性ですね。不可解。ひとりよがり。何も説明してないのに、それはもう説明しました的な顔して無造作に進行する。映画の中に「時間つぶし」のパートが存在する。不可解さが積もるばかりで、銀幕で何が起こっていても急速に興味がなくなってゆく。この稀有な個性は、次作の『君よ憤怒の河を渉れ』で大爆発することになる。

すべての事象が警察が底抜けのバカであるがゆえに展開し、進行する脚本。全部いらない回想シーン。いちばん信じられないのは、新幹線が止まってからも延々と映画が続くことだ。喫茶店が燃える超展開。もはや誰ひとり興味ない、健さんが捕まるか逃げきるかの茶番。映画の最後は死ねばいいと思ってる。ホントだぜ… 佐藤純彌はそう思ってる。

オレがこの映画を凄いなあと思うのは、国鉄が撮影許可しないばかりか映画製作自体やめてくれと言ってるのに、平気で作ってしまう面の皮の厚さだ。面白ければ何やってもいいんだよという東映スピリットだ。まあそれにしたって、国鉄の時代だったからやれた企画ではあると思う。民営化後のJRは営利企業なので、下手すりゃ告訴されたかもしれない。国鉄は日の丸背負ってるのでそこまでするまい、と東映も踏んだ筈だ。オレが興味あるのは、黒澤明はこの映画観たのだろうかということだ。黒澤明は回想いっさいなしのノンストップアクション『暴走機関車』の脚本を、60年代に書いている。たぶん「なんだこの映画、モタモタしやがって」と怒ったと思うんだよな。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)Orpheus けにろん[*] 緑雨[*]

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