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[コメント] ロッキー・ザ・ファイナル(2006/米)

誰もが心のどこかで望んでいる筈だ
ペンクロフ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







Rocky Balboa』を、先行オールナイトで観た。本編上映前に、他の映画の予告編が流れる。ハリウッドの最新大作映画の予告編は、どれも情報過多の目まぐるしい編集で、目を惹くエフェクトや派手なCGがあって、例外なく美男か美女が出ていて華やかで、ウヒョーいかにも楽しそうだなあと思う。

続いて始まった『Rocky Balboa』はいかにもみすぼらしく、古色蒼然としていた。全然、手の込んだ映画ではない。金もかかっていない。映画は貧乏くさい街を映した、貧乏くさい映像で始まる。

エイドリアンの死後、ロッキーは表向きは世界との折り合いをつけて生きている。一見穏やかな老後に見えるが、それはロッキーにとっては静かな地獄だ。苦しい心情を吐露し、ロッキーはひとつの挑戦を始める。まあ、ただそれだけの話である。

老いたロッキーの挑戦は、まるで『ロッキー』第一作をなぞるように、バラバラだった人々の心を繋いでゆく。クビになったダチ、オバチャンになった不良娘、そのヒネた息子、そして家族に背を向け、父の影の中から出られないでいる不甲斐ない息子。エイドリアンはもういない。ミッキーもいない。アポロもいない。愛犬バッカスも、ガッツォ親分も、神父さまもいない。それでもロッキーの周りには、少しずつ人が集まってくる。

毎日自分に小さな悪を為している誰もが、自分もロッキーのように善良でいられたら、と思う。毎日自分に小さな嘘を吐いている誰もが、自分もロッキーのように正直でいられたら、と願う。今掴まなければ失ってしまう、大切な何かを先送りして、今をやり過ごして生きている。別に、それで構わない。他にもそんな人間は大勢いる。言い訳なんか山ほどある。しかしそれでも、たぶん誰もが心のどこかで望んでいる筈だ、今、それを掴むことを。自分を誤魔化さず、今を生きることを。ただひとりロッキーだけが、一切の言い訳をせず、笑われることを怖れずに「今」に殉じて生きている。だから人は、ロッキーに惹かれる。時には彼のダサさを笑い、野暮ったさに辟易しつつも、しかし惹かれる。あきらめずに愚直に前へ進む、不恰好な姿に胸を打たれる。映画を作った当のシルベスター・スタローンだって、誰よりも「ロッキーのように生きられたら」と望んでいるんだと思う。だから「今さらロッキーかよ」とバカにされることを百も承知で、こんな映画を作る。美男も美女も出てこない、シンプルで、古くさい、しかし骨太な、小さな映画を作る。今さら作る。

退場してゆくロッキーが上げた手が、名もないファンが伸ばした手と結ばれるストップモーション。心は繋がる。フィラデルフィア美術館の階段を、ロッキーの真似をして駆け上がり、飛び跳ね、踊る人々。心は、どこまでも繋がってゆく。そうか、お前らもロッキーになりたいんだな。実はオレもなりたいんだよなあ。

劇場で、オレとしては珍しくパンフレットを買った。その中に載っていたインタビューで、スタローンは「最終的にはエドガー・アラン・ポーの作品を監督したい」と語っていた。それはまだ『ロッキー』の構想など影も形もなかった頃、ニューヨークで食い詰めてポルノに出ていた時代から、スタローンがずっと心に抱き続け、ことあるごとに語り続けてきた夢だ。アメリカ最高の文豪・ポーを筋肉バカのイタ公が映画化するなんて! と嘲笑われること30余年、60歳になったスタローンがいまだにポーの映画化をあきらめていないのだ。その映画がどんなふうになるのか、オレには全然想像できない。ひどい代物になる可能性だって低くないと思う。またラジー賞をとるかもしれない。しかしそれでもスタローンは、その映画を必ず作るだろう。

Rocky Balboa』を作った彼なら、必ず作るだろう。

(評価:★5)

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