コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] どん底(1957/日)

持たざる我々には、悪態と冗談しかない
ペンクロフ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







10代末期に観たきりだったが、『パラサイト 半地下の家族』からの連想で久々に観てみた。冒頭、崖の上から貧乏長屋にゴミ落とされるとこなんか絶対ポン・ジュノさん観てると思うんだよな。貧乏長屋にシレッとソン・ガンホいたっておかしくねえもんな。今回驚いたのはOPクレジット冒頭、黒澤明のひとり製作というところ。これ、ちょっと他にないんではないか。製作費のケツ持つやつが、誰もいなかったということだ。相当な覚悟で作ったんだろうなと思う。

オレは「底辺から見る世界」ものの映画が好きだ。オレが勝手にそう名付けただけのジャンルなんだけど、ドロップしてアウトして落っこちて、社会の底辺をのたくる連中が出てくる映画群のことだ。別に無職や乞食に限らず、「底辺の気持ち」がそこにあればこのジャンルと勝手に認めている。つまり『桐島、部活やめるってよ』も、『のるかそるか』も、『ブラインドスポッティング』も、この『どん底』も、「底辺から見る世界」ものである。

三井弘次とか千秋実とか、悪態と冗談ばかりでホントろくでもない。しかし一度でも底辺の臭いを嗅いだ人なら、ああなる気分はわかる筈だ。誰彼構わず金をせびる一方で、一杯やれよと酒を勧める。自堕落で、どこか楽天的。プライバシーの概念すらない長屋では、何でもかんでも分かちあってしまってまるで原始共産制だ。仏さんのような左卜全こそ怪しいんだ。藤原釜足に希望だけ与えて自殺に追い込んだのはあの爺さんだ。

登場する面々は面白いし役者の演技も最高、江戸時代のラップも聞けて文句ないんだけど、じゃあ黒澤明が本当に底辺の人々に寄り添って血の涙を流しているかというと、これは面白がってはいるものの、寄り添ってるとは言い難いとわたくし思う。ロシア文学好きの黒澤はゴーリキーやりたかったんだろうが、それって知識階級の考えることだよな。御殿場に別荘を建てて、毎日ステーキ食ってる180cmオーバーの巨人ファンですわ。格差を描いて山崎努を断罪した『天国と地獄』の方が、黒澤の本音じゃないのかなあ。まあポンジュノさんだって半地下に住んでるわけじゃなし、あんまり言うのもアレなんですが。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (4 人)緑雨[*] いくけん[*] ぽんしゅう[*] けにろん[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。