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[コメント] 姿三四郎(1943/日)

敵役、檜垣源之助は敵役でこそあれ、悪役ではなかった。三四郎と同様に彼もまた武士道の人であり、だからこそ右京ヶ原の闘いは忘れられない美しさで胸に迫る。
ペンクロフ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







いったい、檜垣源之助がどんな悪いことをしたというのか?

よくよく映画を観てみれば、何もしちゃあいないのである。修道館(明らかに講道館なんだが)を訪れたとき、彼は修行止めの身である姿と無理に立ち会おうとはしない。師匠の村井半助では姿三四郎に勝てないと感じ(その読みは当たっていた)、柔術復興のため自ら戦おうとする。だが時代は柔道を選んだ。師敗れるを見るや、人知れず三四郎に果たし状を送る。立ち会い人は一人。誰に見せるためでもない、純粋な決闘である。彼は一人の柔術家として死力を尽くして闘い、敗れる。

檜垣源之助に悪役のイメージがあるとすれば、村井半助の娘・小夜に結婚を迫っていること、花にタバコの灰を落としたこと、そして今見ればギャグそのものの洋装でキメていることくらいか。黒澤明の演出が巧妙だから悪いやつにしか見えないけれど、明治という時代を考えればどれもたいしたことではない。

檜垣源之助はすぐれた、完成された武道家だった。どこまでも無邪気で謙虚な三四郎は、蓮の花に感激する少年の心を持っていた。死闘の最中、蓮の花のイメージが絶体絶命の三四郎を救うくだりは息を呑む美しさだ。完成された檜垣源之助は、未完の大器である姿三四郎に敗れた。

三四郎は美しかった。檜垣源之助も美しかった。映画の冒頭、敢えて川を背にして闘う矢野正五郎が美しかったのと同様、彼らの姿は胸に迫る。

(評価:★5)

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