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[コメント] ノートルダムのせむし男(1939/米)

チャールズ・ロートンは名演だが、モーリーン・オハラがゴツくて美少女エスメラルダ役にはちと厳しい。ほろ苦いラストだがこれは大改変で、原作に比べればこれでもひどく甘い結末なのだ。
ペンクロフ

時代時代でいつも物語が改変されるヴィクトル・ユーゴーの原作は、その鮮烈なイメージ、大スペクタクルがもともと極めて映画的な小説だ。大俯瞰から長大なズームで一点に近寄っていったり、闇の中から顔がヌッと現れるような陰影の濃いレンブラント・タッチを駆使したり、読者には正体の察しがついている「謎の人物」を顔を撮らないカメラワークのような描写で行動させたり、かなりカッコいいのである。その一方で本筋に関係ない話が延々と描かれたりしてとっ散らかっており、「小説」という形式が洗練される以前の神話的、民話的な文学でもある。改変なしに映像化するのは難しかろうと思う。

この映画は原作のスペクタクルな要素を選んだ。冒頭、大聖堂前の広場で民衆が大騒ぎするモブシーンは大迫力だ。民衆は馬鹿ばっかりだ。現代でこそ気取ってくれちゃってるが、この時代のフランスの大衆なんて無学文盲無知蒙昧、他人が鞭打たれるのが最高のエンターテインメントで、街なかにウンコ小便ばらまいて臭くてしょうがないから香水を発明したという原始人どもだ。国王ルイ11世には辛うじて知性があって、印刷技術を擁護してみせる。水戸黄門みたいだ。へえーゆかいな倫敦オシャレな巴里も、昔はこんなんだったんか。そう思えるほど「時代劇」してるんだから、なかなか立派な映画だと思うのだ。クライマックスなんて籠城戦の合戦シーンだからな。

一方で、原作に描かれる登場人物たちの三角関係や四角関係、愛や憎悪の表現は実に弱いと思った。特にカジモドを育てた司教補佐フロロという強烈なキャラクターを、兄と弟に分割して薄めているのは残念だった。原作では、マジメ一直線に生きてきた中年男性がふと目にした地下アイドルにハマって狂ってストーカーになって事件起こして人生終わっちゃうみたいな、たいへん味わい深い人物なのだけど。

(評価:★3)

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