コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 馬(1941/日)

奇跡が、フィルムに映っている
ペンクロフ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







貧しき百姓家族は、円満な一家ではない。言い争い、ぶつかりあい、いがみあう。およそ互いの人格を尊重しあうということがない。ババアも子供もあんまり大事にされてない。ガキは口を開けば腹減った、腹減った。これが凄いリアリティなのだ。苦労ばかりの貧乏人には、家族を思いやる余力など残されていない。

大黒柱たるオヤジを怪我させた、厄介ものの牝馬「花」が出産する。生まれた仔馬が立ち上がろうと、懸命にもがく。それはあまりにも美しく、イノセントな姿だ。無垢な生命の輝きを目撃して、不意に家族の心がひとつになる。老いも若きも全員で、立て、がんばれと無心に願う。夜が明けて、外に出て、朝日に手を合わせる。本当に奇跡の一夜だったのだ。この後またスーッと家族の気持ちは元通りバラバラの通常運転になってゆく。ま、そんなもんだよな。でも一度は奇跡が起こったことを、我々は知っている。

今も昔も、馬は「経済動物」であって愛玩動物ではない。乗用、荷役、農耕、競走、食肉。何かしら役に立つから、人は馬を飼う。この映画では売るために馬を育て、育ったら売る。当たり前だ。それでも命と向かいあった人間の内には、愛情が生まれるのだ。経済動物を経済動物と割りきれず、迷いの中に生きる人間が、オレは好きだ。実際のところは、愛情なしに馬の世話など1日だってやれるものではない。だってすげえウンコするからなあ。

以下余談。この映画の撮影中、主演スター高峰秀子がチーフ助監督の黒澤明に惚れて恋愛関係になった。盛り上がった2人は山本嘉次郎に仲人を頼んだ。困ったヤマカジ先生、「わかったからちょっと待て」と宥め、東宝上層部と相談の上で2人を引き離し破談させたという。

』の撮影は3年かかったが、映画公開の1941年には黒澤31歳、デコちゃん17歳。おいちょっとてめえ黒澤ふざけんなよ! 何してくれてんだこの野郎、ブチ殺すぞ! 『』の余韻が台無しだぜ!

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (3 人)[*] ジェリー[*] ぱーこ

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。