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[コメント] ラストエンペラー(1987/英=中国=伊)

タイトル・バック、皇帝の印章の朱の鮮やかさ、ベルトルッチ、直感の為せる業(わざ)。完全復活!
いくけん

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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イタリアの巨匠ベルトルッチが描く、近代中国史。違和感がない傑作に仕上がっている。安直な東洋理解を示さずに、彼の中国文化に対する素直な賞賛の目線と、高みからみた感じの平板な歴史絵巻でなく、溥儀の一人称による語り口が、我々の共感を呼ぶ。戦略の勝利。以下、『』、『事物』、『人物』の観点から、印象深いものを。

●歴史を総括する『』たち。

・溥儀の幼少時代の『』。朱と金色の2色に集約されるでしょう。豪華絢爛たる彩り。中国文化の何たる深さ。しかし、落日の夕陽の色も、また、朱と金色。暗示的。

・傀儡国家、満州国。5色の国旗の配色の拙さ、儚さ。邸宅の西欧風壁画の薄ら寒さ。幼少時代の、深く、豪華な彩りと比べると、いかにも表面的だ。蒼ざめた緑の時代。即位のパーティで、無数に舞い降りてくる銀のテープが、悲しい。豊穣な満州が涙している感じがした。

・そして、中華人民共和国の時代。朱(赤)が復活している!民族の誇りを取り戻している。しかし、ラストのパレードで、毛沢東の肖像画を見ていると、溥儀がラスト・エンペラーではない気もして来た。赤いブルジョアベルトルッチ、の共産主義への矜持を感じた。『革命前夜』より、時は流れた。

●共鳴する『事物』、幸福の瞬間と、さりげない悲劇の前置詞。

・自転車――今では、中国の代名詞みたいな乗り物だが、映画の自転車はイギリス製だ。象徴的。しかしベルトルッチの描く自転車の場面は、どれも優雅だ。

・眼鏡――中国皇帝で最初に眼鏡を掛けたのが溥儀。真に時代の天上人ならば、眼鏡など必要ないはずだ。この新しく入手した西洋からの視覚により、時代が崩壊していくさまを、より明確に目撃してゆく。何とも哀れ。そして、眼鏡に着目するベルトルッチの慧眼(けいがん)。

・大きな白い布――幼少時代、大勢の少年たちと布で戯れる。美しい光たち。影たち。後年、時代に翻弄される溥儀を暗示している、みたいだ。そして、成人した溥儀と王妃たちが、白いシーツの中で戯れる。妖しく波立つ布。しばらくして、その白色が、炎を照らして赤く染まる。まさに、悲劇の既視感覚。演出の妙!

●光る『人物』像、的確な配役

・愛新覚羅溥儀――ジョン・ローン。気の遠くなる程の、純粋な孤独感がよく出ていた。あと、内面の虚無性。彼自身の出自も、ひどく孤独だそうだ。

・レジナルド・ジョンストン――ピーター・オトゥール。見るからに英国紳士。高潔な性格。久しぶりに彼の姿をスクリーンで観れただけで嬉しかった。しかし、少し謎めいた雰囲気も漂っていた。西洋化の先鋒役かも。

・収容所総監――イン・ルオ・チェン。本当にいい東洋人ってこんな顔をしている。大学時代のバイト先の店長さんもこんな顔やった!

・愛新覚羅浩―― ? 松坂慶子風清楚な美人。とにかく綺麗。同じ東洋人でも、間違いなく日本人顔。演じられた方は、なかなかの逸材だったと思う。惜しい。(情報求む!)

・他にも高松英郎(律儀な日本の軍人さん)とか、白い顔の審問官(怒ると恐い)とか、東洋人の特徴をよく掴んでいた。凄いキャスティング・センス。

●最後に。

異国の、しかも皇帝の、物語に此れほど共感させられたこと自体が、驚きだった。しかも、西洋人の監督によって。このことはもっと賞賛されて良い。ベルトルッチ+ストラーロに最大限の賛辞を捧げます。他にも愛しいシーンが多数あり!

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (13 人)Orpheus りかちゅ[*] Santa Monica 甘崎庵[*] Keita[*] ゑぎ[*] 緑雨[*] ナム太郎[*] ろびんますく[*] maoP モモ★ラッチ[*] m ルッコラ

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