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[コメント] デッド・ドント・ダイ(2019/米)

ジャームッシュ自身がムービー・ゾンビとなり撮った、自分と仲間だけが楽しめればよい身勝手な作品だが、だからこそそれが痛烈な風刺になっているのが楽しい。
ナム太郎

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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ここ数か月に及ぶコロナ期の中、少なくとも私は、もう嫌というほど「自分のためだけに生きている」としか見えない人たちの行動を目の当たりにしてきた。その結果がどのような状況を招いたかということは今さら言うまでもないだろうが、そんなことを言っている私自身にもやはりそのような側面がある。残念ながら、これは疑いようもない事実だ。

本作はそんな誰もが望まずとも持ち得てしまっている意識に対する痛烈な風刺であるわけだが、それを決して説教くさく作らず、ゆるーい喜劇作品に仕上げているところはさすがジャームッシュと言うほかない。

個人的にはまず、その絶妙なネーミングにやられた。まずビル・マーレイ演じる「クリフ・ロバートソン」(※)。これはあの『愛のメモリー』の名優と同姓同名で、またえらい渋いところを攻めてきたなとクスクス。さらにその相棒のアダム・ドライヴァーに至っては「パターソン」ならぬ「ピーターソン」。しかも今度はのんびり走る大型バスではなく、超小型のスマートを全速力で運転しているし。また、他の方も書かれているように「ラムズフェルド」(ご丁寧にその名は、大量の銃を捉えた画とともに発せられる)や「サミュエル・フラー」(記憶違いでなければ、その墓から蘇るのがイギー・ポップ!)と、その遊び心は尽きず、そんなお遊びのとどめが「ゼルダ・ウィンストン」などという本名をもじったとしか思えないようなふざけた名前を当たられたティルダ・スウィントン。彼女は葬儀屋でありながら剣の達人でもあり、どうやら宇宙人でもあるらしいというハチャメチャなキャラだが、アダム・ドライヴァーとの『スター・ウォーズ』関連のギャグなどを見ていると、その姿はヨーダをも想起してしまうほどであった。

物語的なことに関しても、伏線が張り巡らされる割に結局そのほとんどが回収されずに終わってしまったところや、台本の件など、映画的にはやってはいけないことをやってしまっているところに関しても、これは「映画の可能性をこんな小さな枠の中に押し込めていいのか」という意図的な破壊というか、挑戦のようで、自分には気持ちよかった。破壊や挑戦といえば、近年これほどまでに頭部が破壊される挑戦的な画はなかったんじゃないだろうか。

このように本作は、観る人によっては、まるで映画にすらなっていない、苛立ちすら覚える作品であるのかもしれない。が、私は本作は、ジャームッシュ自身が墓場から蘇った「ムービー・ゾンビ」となり、あえて自分と仲間だけが楽しめればよい身勝手な作品という形に撮った作品のように思えるのだ。そうなるとそのラストはやはり「まずい結末になる」ことが用意されるしかないわけだが、これすらも過去(の自分)との決別と捉えられたならば、案外こいつはハッピーエンドなのかもしれない。

※ちなみにクリフ・ロバートソンは1968年度、つまりジョージ・A・ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』公開年に、『まごころを君に』でアカデミー主演男優賞を受賞している。

(評価:★4)

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