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[コメント] ハドソン川の奇跡(2016/米)

老練。驚くような短さながら、完成されたとしか言いようがない作品。
ナム太郎

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







世界中の誰もが知っている事実に基づいた話であり、それがまだ事故後数年しか経過しておらず、しかも関わった人たちのほとんどが生存されているという現況を考えると、作劇に必要な脚色は事実を歪めない程度の微々たるものに限定されるだろうし、事が事だっただけに過度なユーモアも控えたほうがベターといったような様々な制約が想定された中、驚くことに本作は、そういった制約がむしろプラスに作用されている。そこに驚いた。

主人公である機長を演じたトム・ハンクスの素晴らしさは言わずもがなだが、そんな機長の偉業を最大限に讃えつつも、常に冷静沈着にそのサポート役に徹した副機長役のアーロン・エッカートの存在が素晴らしい。機長と同様に事故後は眠ることすらなかなかできず、ホテルに缶詰めされている閉塞的な状況を「スニッカーズが5ドルもするんだぜ」なんていうジョークを交えて話すようなシーンから推測すると、おそらく本来の彼は、操縦士としては一流のプロでありながら、いったん仕事から離れると、それこそどこにでもいるような、気楽なナイスガイなのであろう。しかし、これもまた機長と同様に国家運輸安全委員会の裁定が下されるまでは副機長としての職務を全うしなければならなかったのである。そんな自身の苦悩を横へ置き、それこそ人間としてもただ一人の証人として誰よりも機長を信じ支え続けた彼の存在が明確に示されていたからこそ本作は成立していると私は思う。だからこそ最後に機長が彼に語りかける「私は君が本当に誇らしい。これは君とのチームプレイであったからこそ成し遂げられた奇跡なんだ」という台詞が心に染み入ってくるのだ。

そんな映画の最後が、副操縦士のジョークで終わるというのもよい。というか、このシーン、ジョークなのに、そのジョークに心底泣けたことを素直に告白しておきたい。このたった一言のジョークが言えるようになるまでに、彼らはいったいどれほどの時間我慢を強いられたのだろう。そんなことを思うと本当に「よかった」という思いで終われる素晴らしいラストシーンであったと思った。

あと、これは余談になるかもしれないが、いつもだと銀残しのような色調で彩られるトム・スターンの撮影が、本作では普通の色調に整えられていることも、より現実味が感じられて私はよかったと思った。さらに終幕後の一曲もイーストウッドらしい粋な選曲で、鑑賞中の緊張感が随分和らいだものだ。そんなさり気ない演出効果も、やはりさすがだと唸らざるをえなかった。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)サイモン64[*] けにろん[*] ゑぎ[*] セント[*]

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