[コメント] シャッターアイランド(2010/米)
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この作品を否定する人の多くが、種明かしを中心としたミステリーとしての凡庸さについて言及されているが、私には過去のトラウマによる幻覚を経て正気を取り戻した主人公が最後向かう先が「灯台」であったという「衝撃のラスト」にこそその本質があるように思えてならず(原作者は『ミスティック・リバー』等を世に出したデニス・ルヘイン)、そこを中心に考えるとこの作品はなかなかの傑作である。
まず驚いたのは、役者としてのディカプリオの成熟ぶりである。正直言って私は、『タイタニック』以降確固たる地位を得ながら数多くの話題作に出演し、力の限りの熱演を繰り広げては沈没し続ける彼の芸風にいい加減飽きあきしていたところがあり、実際この作品でも途中まではそんな印象を拭いきれずにいたのだが、ラスト正気を取り戻した彼が「相棒」に見せる、深い哀しみの中にもどこか安堵感さえ漂うあの表情には、『ギルバート・グレイプ』の彼以来の衝撃を受けた。その意味では、これも私にとってはひとつの「衝撃のラスト」であったわけだが、同時に今後の彼には、もっと普通の作品の普通の人を演じてもらいたいとも思ったことだった。
また、開始早々にネタが割れ、それ以降はほぼ無意味といっていい映像の羅列に幻惑されるこの作品への不満も分からなくはないが、私にはそれらの画への、スコセッシならではの遊びが堪らなかった。特にこの作品の時代背景に合わせた当時の映画の再現を試みた遊びの数々や、幻覚という虚構中の虚構を得た映画的な遊びの数々(光、影、炎、煙、水、真っ黒な影、真っ赤な血、C棟での格闘の際の階段、断崖での青みを帯びた合成とはっきりわかる合成等々)には笑みを堪えきれなかったし、大作路線へと進んで以降、やたら動くカメラが今回はどっしりと落ち着いていたこと(リチャードソンの素晴らしい仕事ぶり!)も、この作品にはよく馴染んでいたと思う。
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