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[コメント] フロスト×ニクソン(2008/米)

好篇。いい役者をうまく演出すれば映画的には本物以上に本物になるということをロン・ハワードはよく分かっている。
ナム太郎

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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本作のように実話が元になっている作品は鑑賞前からその結末が予想されるというリスクを背負っているわけだが、TV対談における大逆転劇やそこに至る経緯によってニクソンが政治家として完全に失脚せざるを得なくなる過程をサスペンスフルに描いた本作は、そんなリスクを逆手にとるばかりかむしろそれを好転させて成功した好篇であるといえる。

しかし、そんな構成面以上に本作を成功作へと導いたのがまさに適材適所といえる役者陣の好演によるものであることは疑いのない事実である。フロストを演じたマイケル・シーンは、野心によってこのTV対談に乗り込んだまではいいものの、その権利が売れず、自身の全財産、いや人生をも背負うことになってしまった男のあせりを絶妙に演じていたし、対するニクソン役のフランク・ランジェラも、本物よりも貫禄があったんじゃないかと思わせるほどの堂々の存在感を示し圧巻であった。さらにはレベッカ・ホールも、男中心の物語の中で紅一点の華としての輝きを示していたし、あるいは今や抜群の存在感を示す名脇役となったケヴィン・ベーコンも等々…。

そんな役者陣の好演を引き出すことに成功したロン・ハワードは、今やその安定感という点では本当に稀有な存在だと思う。特に対談の要所で主役2人のクローズアップを切り取ってお互いの微妙な心理状態を画面に定着させることに成功した演出は本当に見事であった。

知っている人は分かっていると思うが、ニクソンにしろフロストにしろ、演じた役者は全く本人に似ていない。しかし安易に顔真似なんかせずとも、いい役者をうまく演出すればそれが映画的には本物以上に本物になるということをロン・ハワードはよく分かっていて、私はそこに本作の映画としての本気度を感じ嬉しくて堪らなかった。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)shiono 3819695[*]

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