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[コメント] 穴(1960/仏)

暴力
ルミちゃん

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







刑務所の生活、悪の世界、その世界でも人の物を盗むのは泥棒、やはり悪いことであった.と同時に、その解決方法は暴力.看守公認の暴力、私はこう受け取ったのだけど. 差し入れを皆で分け合う、窓越しに荷物を運ぶ、それらは入所者同士の連帯.つまり悪の世界に描かれた善である.

所長は、おまえは良い奴だ良い奴だと、ガスパールに事ある毎に言う.実際に訴えが取り下げられ、彼は本当に良い奴だった.所長の言葉は、明日には無理だが、近日中には出所出来るだろう、彼は悪人ではなかった.けれども、その結果、彼は仲間を裏切ることになる. ガスパールが裏切ったのは間違いがないのだけど、問題はそこにはない.所長と話をしてから結末まで、随分時間がある.脱獄の事実が発覚した時、すぐに捕まえたわけではない.映画を面白く観せるための演出ならば、それほど興味を抱くことではないのだけど、実際に起きた出来事がこうであったとするならば、これはどう言うことなのだろうか. 二時間も何をしていた、何を話したか言え、こう問い詰められて、ガスパールは、僕が裏切ったと(思っているのか)、(君達を)僕は信じていた、こう答えた.彼は、逃げ出す直前の、事実が発覚した後も、まだ、違う、と叫んだ.とことん、仲間に嘘をつき通した.

ガスパールに、監房へ帰れ、こう言ったのは、班長であった.電話で呼ばれた班長が所長の部屋に入るときは、床を磨いていた男たちはしゃがんでいたが、ガスパールを連れて出て来たときは、立って足で磨いていた.どうも、班長を交えて三人で暫く話をしていたらしい.班長は事情を知った上で、ガスパールを監房へ帰した. 鉛管工が泥棒したとき、班長は泥棒を監房へ連れてきた.その後の成り行きは描かれた通り.ガスパールは、無実であり脱獄の罪を犯すことなく出所したい、だから仲間を裏切った.そのことを話せば鉛管工と同じように、それ以上に殴られる事が分かっている、だから嘘をつき通した. 班長は、泥棒をした鉛管工が、監房の者達に殴られることが分かっていて連れてきた.殴らせるために連れてきた.私はこう思っていた.そして、仲間を裏切ったガスパールが、本当のことを話せば、他の者達から殴られることも、これも、当然分かっていたはず、こう考えていたのだけど.

ガスパールが監房の者に、本当のことを話した時点で、この事件は終わったはず.彼は最後まで嘘をつき通した.なぜ、本当の事を言えなかったかと言えば、暴力が怖かった、実際に最後は殺されかけた. 泥棒は悪い.裏切りも悪い.嘘つきも悪い.それ以上に暴力が悪い.こう言うことになるのか.

泥棒を連れてきたとき、班長は殴れとは決して言っていない.頼んだよ、こう言ったのね.泥棒をどう解決するか、監房の者達に任された.彼らは暴力で解決した.最後に裸にされた彼らは、暴力を正しいものとした結果であり、自業自得と言わなければならない. 私も、先に、看守公認の暴力、あるいは、班長は殴られることが分かっていながら、と書いたのだけど、この思い込みが、大きな間違い.彼らも、勝手に殴ってもいいと思い込んでいる、暴力を当たり前とする感覚、暴力で問題を解決出来るとする感覚がおかしい、こう言うべきなのか. 泥棒の事件を班長が自分で処理すれば、当然、盗んだ者達を処罰することになる.監房へ帰る道を間違えただけで独房入り、実際はどうなるのか.だから、彼の優しさによって、入所者同士の争いは、入所者どうして解決するように、任せた.任せた、この言葉を、何をしても良い、こう受け取るのは、あまりにも子供じみた幼稚な考え方と言える.暴力は、刑務所の中であろうが外であろうが許されない.これは人としての良識の問題である.感情に任せて、一発、二発は殴ることが許されたとしても、止めに入らなければ殺しかねないほど、暴力を振るうことは許されない.確かに、班長は任せた以上、暴力に対して口出しはしなかったのだけど.けれども、入所者同士が、なぜもっと互いに優しく接することが出来ないのか.

ガスパールを監房へ帰したのも、班長の優しさである.ガスパール、彼一人の問題ではない.真の仲間であるならば、自分達皆で問題を解決できるはず. 確かに班長は曲者なのだけど、彼の善悪を決めるのは入所者自身と言える.彼の行為は、入所者が暴力を振るったがために悪と言わなければならないけれど、彼らが平和的に解決していれば善であった.同様に、監房に帰されたガスパールが真実を話し、結果的に彼らが脱獄を自ら止めて、そのことにより幾らかでも罪が軽くなるとすれば、彼の行為は善であったと言える.

なぜ、所長、班長がガスパールを監房に帰したかと言えば、自首する機会と時間を与えたのね.

所長のように、優しく声をかければ本当のことを話、暴力で脅せば嘘をつく.そして、彼らもまた班長の優しさに対して、本当のこと、本心を表して暴力をふるった.決して、仲間を裏切ったガスパールを責めることは出来ない. 暴力とはどのようなことか、映画の中の当事者達に対しても、観る者に対しても、人間としての良識を問う映画、こう言って良いでしょう.

(評価:★5)

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