[コメント] キング・コング(1933/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
●テンポのよさ
コングが襲ってくる、恐竜が襲ってくる、休むいとまもなく次の危機が来る。ドリスコルがアンを助け出し、壁の外にまで出て、みんなと合流、ほっと一安心……だが間もなくコングがやってくる。この一安心したところでテンションを下げないのがこの映画のいいところ。コングを持ち帰るときも、船で運んでいるような余計なシーンはなく、あっという間に舞台は街へ移る。リメイク版のような船上でのドラマが無いがゆえに、映画が面白い。
●破壊
島で原住民の住居を破壊しまくるコングは注目に値する。未開拓の島なんて、街で暴れるのと違って、破壊が少なくなりがちなのだが(というより、ミニチュアを作らなくてもいいように、舞台を孤島にすることは多い)、ここでは建物の破壊が存分に描かれる。後半の街の破壊にひけをとらない迫力である。
くらべるのも何だが、同じコマ撮りで、その道の神様と言われるハリーハウゼンの映画も、実写の人間との巧みな合成が売りだが、破壊はというと少ない。『世紀の謎/空飛ぶ円盤地球を襲撃す』のようなSFでなく、ファンタジーになると、特にそう。これがハリーハウゼンへの最大の不満(もちろん、ダイナメーションと言われる合成映像は僕も大好きだが)。
そして、建物を破壊しなくても、恐竜をぶったおし、人間を崖に落とす荒々しさは思わず手に汗握るほどの迫力である。
●音楽による盛り上げ
こういう古い映画って、割と静かなイメージがあったけど、この映画はすごい。最近のハリウッド映画のようなダイナミックな音楽が絶え間なく鳴り続けて恐怖を盛り上げてくれる。しかもハリウッドのようなこけ脅しでないところがいい。
また、映像に合わせて音楽が鳴るのがうまい。島で酋長がこちらに歩み寄ってくると、その歩調に合わせてリズムが刻まれる。街でコングが電車を殴ると同時に音楽が途切れ、殴る音だけが鳴り響く。こうした演出が、映画の雰囲気を倍増する。
●生物としての描写
コングの生物としての描写が丁寧である。ガス弾を投げつけられたときには、目をこすり、倒れてもなお立ち上がろうとし、徐々に弱っていく様子が描かれる。舞台に立たされたときも、ちゃんと動いていて、アンの動きを目で追っている。
こうした描写があるからこそ、特撮技術は古くても、コングをただの人形ではなく、命あるものとして見られるのだ。
そしてラストのエンパイアステートビル。胸に銃弾を受けるコング。ここも生物としての描写が丁寧だ。一気に倒されるのでなく、徐々に弱っていく。最初は飛行機に対して拳を振り上げて吠えていたのが、胸から血を流し、やがて目はうつろになり、ついには屋根につかまっているのがやっとになる。命あるものとして見られるから、僕らはコングに感情移入してしまう。最後にもう一度だけ、アンを持ち上げ、彼女を見つめるその表情は、死期を悟って別れを告げているかのようだ。
この映画は、円谷英二その他、多くの特撮界の人間に影響を与えた。その魅力は今見てもひしひしと伝わってくる。迫力と感動の傑作である。
* * *
ところで、コングがエンパイアステートビルに登ったときの人間の会話。
「コングがビルに登った。もう我々には手が出せない。」「まだ手はある。飛行機だ。」「それだ!」
この映画が公開されたのは第二次大戦前。当時、飛行機で攻撃するなんていう方法は、一般人には、なじみがなかったんですね。
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