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[コメント] 幻の湖(1982/日)

「芸術と狂気は紙一重」というならば、この映画がそれではないか。この映画は確かに失敗作である。しかし断じて駄作ではない。
空イグアナ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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長い間ソフト化されず、題名通り幻の作品と言われた作品であり、トンデモ映画の名作です。それをついに、この目で見たのであります。そのトンデモなさは、方々で語られてきました。今さら私などが、この場で詳細を説明する必要もないくらいです。「ジョギング、犬、ソープランド、琵琶湖、観音像、戦国時代、笛、スペースシャトル、あらゆる要素をぶち込んだ映画」と紹介されます。ちなみにDVDを見ている私の傍で、母は家事をしたり、外出したりで、この映画をツギハギ状態でしか見ていないはずです。たぶん、母は僕がサスペンスと時代劇、2本のDVDを借りてきたと思ったでしょう。本当はこれで1本の映画なんだよ〜。

確かに笑うところでは笑いました。

犬のお墓を作り、犬小屋を燃やすヒロイン。「さよならだわ。あの人にも、この人にも……。」怖いです。この後、彼女が作曲家をグサッと刺したらサイコものになるのですが……彼のマンションを再び訪れたヒロインはジョギングスタイル。おい。うーむ、話には聞いていたが……。ここ、登場のタイミングが絶妙です。

作曲家に引き離されるヒロイン。この辺になると、もう復讐なんてものは忘れて、スポコンもののノリになってます。苦しそうな表情で、石段を登るヒロインの姿が、ロッキーと重なります。

作曲家を刺して、スペースシャトルの打ち上げ映像に切り替わるタイミングがこれまた絶妙。まるで彼への体当たりが、打ち上げのスイッチだったみたいだ。あるいは、このスペースシャトル、刺された作曲家が昇天するイメージ映像みたいに見える。

うーむ。評判通り、凄い映画だった。しかし、であります。この場合の「凄い」というのは文字通りの意味なのであります。つまり、笑い物として済ませられないだけのパワーを持っているのです。

確かにこの映画は変です。どっかの諜報部員がソープで働いているというのも変です。刃物を持った女に襲われた男が、そのままジョギングモードに入るのも変です。しかしそういった「笑い」を修正すれば、この映画は間違いなく芸術作品になります。

世の中には『デビルマン』のような金返せ映画や、『シベリア超特急』のような抱腹絶倒ムービーがあります。『幻の湖』はそうした映画とは違うように思うのです。

デビルマン』を劇場で見たとき、私の前方に座った客が、何度もクスクス笑っていました。本当は私も声を出して笑いたかったのです。何度も笑えるくらい『デビルマン』は、変な場面の連続でした。

DeepLove劇場版』は、映画づくりの経験もない素人が、金儲けだけのためにつくった映画としか思えませんでした。

マトリックス レボリューションズ』は、壮大に膨らみすぎたストーリーに、観客よりも誰よりも、監督が追いつけていない気がしました。

しかし、『幻の湖』には、笑える場面に負けないくらい素晴らしいシーンがあります。琵琶湖、浜辺で愛犬の死骸を抱きしめ号泣するヒロイン、観音像、時代劇……どの映像も美しい。そして愛と憎悪のストーリー。「この映画はゴミです。」(『DeepLove』のごうさんのコメント)とだけ言って切り捨てられないできばえです。監督が無理をしているとも思えない。いや、それどころか、橋本忍の壮大なイメージを描くには、スクリーンという小さな枠では追いつかなかったのではないでしょうか。

どちらかといえば、『AKIRA』を連想します。あの映画は、「意味はよくわからなかったけど、すごい映画だった。」と評価されているのを読んだことがあります。実際に私が目にしたとき、そう思いました。『幻の湖』があらゆる要素をぶち込んだトンデモ映画なら、「超能力、未来都市、暴走族、軍隊、超科学兵器、宗教団体」これらをすべて混ぜ合わせて成功させたのが『AKIRA』だったと言えるのではないでしょうか。

幻の湖』は確かに変です。笑えるシーンもある。興行的にも失敗しました。明らかに失敗作です。しかし駄作などと言っては失礼です。同じトンデモ映画でも、『シベリア超特急』や『デビルマン』と同じに扱うことはできません。「芸術と狂気は紙一重」とはよく言いますが、この映画がまさにそれだったのではないでしょうか。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)じゃくりーぬ 林田乃丞[*] YO--CHAN[*] 荒馬大介[*]

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