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[コメント] Deep Love 劇場版 アユの物語(2004/日)

この映画は、日夜、自主制作映画に力を注いでいる全国のアマチュア映画監督に捧げるべきだ。「これなら俺もプロとしてデビューできるかも。」と自信がつくことだろう。
空イグアナ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







あまりの評判悪さに見てしまいました。ええ、ツッコミ入れるの目当てで観ましたよ。ちょっと不安もありましたけどね。ツッコミ目当てで観たはいいが、笑うどころか、ムカつくだけで終わるんじゃないかって。でもよかった。もう観ているときは、おかしくてしかたなかった。

原作は、最初の数ページを本屋で軽く立ち読みした程度だけど、アユはいつも無表情だということが書かれていた。どうもアユは生きることに無気力みたいだ。映画で見るあのロボットみたいな演技も、その無気力さを表現したかったのかもしれない。

……でもさあ、いくら無気力だからってあんなに無表情なもんかね。そんなに無気力な人間が、電車で痴漢していったオヤジをしつこく追いかけるかな?簡単に諦めそうな気がするなあ。無気力な人間が、おばあちゃんから挨拶された後、花がどうとかいう会話をあんなにするものかね?会話どころか、ろくに挨拶さえしない気がするなあ。そのままアユはおばあちゃんと仲良くなってしまう。なんでだ?そこを説明しなければ、その後のおばあちゃんとのエピソードも感動できないよ。

何よりも致命的なのは、そんなに無気力なアユが後半は、唐突に現れた義之にどうして惹かれたのかがまるっきり、伝わってこないこと。これじゃ全然、”Deep Love”じゃないじゃん。

公園で義之と話しているアユを見ても、恋愛なんて全然なくて、死んだおばあちゃんに申し訳なかったから、そして義之が病気を持っていてかわいそうだからっていう理由で彼の相手をしてるんだとしか思えなかったよ。沖縄に行こうって言ったときにもそうとしか思えなかったね。それが海に並んですわったら、もうずっと前から恋をしていたような雰囲気になっている。なんじゃこりゃ?

これならおばあちゃんとかレイナの話はいっさい省いて、アユが義之と仲良くなっていくまでをみっちり描いた方がよかったんじゃないかね?

     *     *     *

さて、枝葉末節は無視して一番致命的だと思う欠点を批判したわけだが、やっぱこれだけで終わりたくないねえ。枝葉末節がまた面白いんだわ、これが。

公園で捨てられたパオを見つけたアユ。そのまま犬と話をする。おいおい。そりゃね、動物や植物に話しかけることはあるけどさ。初めて出会った犬にあんなに何でもかんでも言葉にするかよ。

前半の竹中直人の演技はコメディアンそのまんま。

ホストの兄ちゃんが、サングラスに鼻血の顔でアップになったときは、吹き出した。

ペンを太腿に突き刺したときの「痛いーっ!痛いーっ!」っていう悲鳴が、かえって痛そうに思えない。アユが返り血を浴びるほどの怪我だ。痛すぎて声を出すことさえできないんじゃないだろうか。(わたしゃ、文字通り飼い犬に手を噛まれた事がありますがそうでした)

血のついた手を見ながらおばあちゃんに電話をかけるアユ。犬の散歩ができないって言ってた体なのに、アユのもとへ行こうと必死で走るおばあちゃん。感涙ものだ。でも、アユがおばあちゃんのもとへやってきたときには、「アユちゃん、どうしたの?怪我はしてないの?」 事情も知らないのに、必死になってたのかー!(アユの居場所は知ってたんだろうな?)

このシーンでおばあちゃんとアユの連絡係を務めた犬のパオ。便利な犬だなー、と思ったら、後半でも伝書鳩の役目をしてやがる。本当に便利だ。

作者のエイズに関する無知が批判されたりもしてたが、その辺のことは、俺なんかよりもっと詳しい人に解説をまかせよう……って言いたいんだけど、いや、変だと思うよ、あれは。アユはいつHIVをもらったんだろう。あれじゃ、ウィルスが体内に入ったとたん、咳き込んで、嘔吐して、顔が真っ青になって、死へ突っ走っていくみたいじゃないか。(それとも、もっと早くから感染していたのかな?でも、義之のために必死で援助交際を繰り返したためにエイズに感染したっていうのが泣けるわけでしょ。それ以前の援交で感染したんなら自業自得、泣けないよ。)

アユが死ぬシーンも、ヒロインの最期だというのに全然盛り上がらない。死んだのか、眠っているだけなのか、すぐには判断できなかったくらいだ。

 ……これでも、まだ半分も突っ込んでいないんだなあ。あとは、将来を夢見る、アマチュア映画監督に任せよう。「援助交際でエイズに感染した少女」に捧げるのもいいが、それよりも、全国のアマチュア映画監督に贈ったほうがいいだろう。「こういうふうに撮っちゃいけないんだな。」っていうよい例になるし、「これなら俺のほうがもっとすごいの撮れる。」って自信がつくと思うんだ。

(評価:★2)

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