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[コメント] ターミナル(2004/米)

こぎれいにまとめた退屈なヒューマンコメディ。そこにあるのはテキスト通りの笑いとプロセスを省いた感動のみ。勧善懲悪の安易な人物配置も見ててげんなり。 2004年12月18日劇場鑑賞
ねこすけ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







本作のトム・ハンクスことビクター君は、祖国がクーデターでひっくり返って消滅した為、国籍を失い「法の隙間」に落ちてしまった、と言う理由で空港で足止めを喰らい、そこでの生活を余儀なくされる。

聞いた所によると、本作にはモデルとなった人がフランスのドゴール空港に居るとか。その人がどういう理由でそこに住んでいるのかまでは聞いて居ない為知らないのだけど、一応その人には本作を制作するに当たって、ある程度の金が支払われたそうなのだが、俺の覚えている限り、本作には彼の存在を示唆するようなテロップはどこにも無かった。おいおい、金払えばそれでいいってのか?

「似てる」とか「オマージュ」とか「パロディ」でなく、“モデルにしている”のだから、それなら、金払うだけで問題を解決するのではなく、inspired byぐらい書けよな。

で、まぁ作品なんだけど、非常に退屈で詰まらなかった。スピルバーグってこんなに下手糞な人じゃなかったと思うのだけど、どうなんだろ。俺は下手糞に思えた。

俺は見る前は本作に大した期待は抱いてなかったのだけど、予告を見た時に抱いた印象としては、「一人の主人公を軸に、空港の職員の心が繋がっていく物語」みたいな物だったわけで、実際本作はそれに似たコンセプトの元で製作されて居ると勝手に予想するのだが、ソレは見事に失敗している。

所謂「感動」、つまり起承転結の「転」に至るまでのプロセスが一様に中途半端で得られる感動、カタルシスが全て未成熟の状態で提示されるため、何の感情の高ぶりも起きず、ただ画面で映画が、時間が前に進んでいる、それ以上の意味を持たない。まぁ軸となる登場人物が、思いの他少なかった(荷物関係の職員=ジジイ、若いあんちゃん、入国管理官?、局長、警備長、キャサリン・ゼタ・ジョーンズ、程度かな?)から、こんな物なのかもしれないけど、それなら2時間超えさせてまで語るなよ、とか思うんだけどなぁ・・・

この手の物語は、主人公の「成長」を軸に、色々な個々のエピソードをそれぞれ別々に盛り上げて行き、最終的に全てを上手く完結させて、主人公の「成長」と言うか「目的達成」を提示して終了、となるべきだと、俺は勝手に思っているのだけど、本作はそれらの全てのプロセスが中途半端にしか描かれないまま、勝手な完結を示してしまう為、そこに真の感動は生まれない。あるのは音楽やシチュエーションで生み出す、軽薄で一時的な安っぽい感動に他ならない。

その代表格が、黒人のねーちゃんと、荷物運びの若いあんちゃんとの恋愛をトム・ハンクスが成就させる、と言うエピソード。俺、思わず唖然としたよ。コレはもしかして、スピルバーグが「現代の世の中は真の恋愛が存在して居ない!」と訳の分からん思想に被れて描いたブラックユーモアなのか?それとも斬新な省略法って奴か?恋愛のプロセスを一気に省いて、イキナリ婚約指輪なんて出した所で、そんな恋愛に説得力の欠片も無い事は、コレだけ名声を築いてきたスピルバーグなら分かるはずだ。

いや、まぁあと30分ぐらい削るか、登場人物をもっと丁寧に描けば良質の作品に仕上がったと俺は思うので、非常に惜しい作品だと思っているのだけど、コレは「スピルバーグが撮った」と銘打たれた作品なんだ。その作品がこの程度の出来、と言うのは失望せざるを得ない。

ビクターは登場人物たちの心を繋ぐ事も、傷を癒す事も、成長させる事も無い。あってもプロセスが省かれている為、そこに映画的感動は何一つ存在しない。そんな群像劇、どこが面白い?

例えば、せっかく空港を舞台にしているのだから、「毎日ターミナルで帰らぬ夫を待ち続ける老婦人」とか、ありそうでなさそうなシチュエーションを取り入れたり出来たはずだ。それなのに、空港の局長だか何だか、あのハゲめがねのオッサンとの駆け引きを描いたりして、ヘンテコな勧善懲悪に陥っているのは、一体何のつもりなのか、俺にはさっぱりわからん。

そういった「管理する側」と「管理される側」と言う対立構造を取り、「管理する側」を悪と設定した本作。つまり、その「管理する側」を打倒する手段はつまり主人公=ビクターが空港から外に出る、と言う事に他ならない。

だけど、ココでもまた、そこに至るまでのプロセスが「コイツは悪い奴」と提示するだけに留まっており、彼の人間性を等を殆ど描いて居ない。その上「管理される側」もきちんと描ききって居ない。

例えばそれは、トム・ハンクスの人間性が空港職員達の「長いものには巻かれろ」的な考え方や、諦め等を徐々に変えていく、と言う流れであるはずなのだが、掃除係のジジイが係員に得意気に彼の存在を自慢するシーン等の様に、表面的な物しか描いて居ない上に、彼ら職員達の「管理する側」への不満などをきちんと観客に提示しきっていないため、ラストで「管理する側」を出し抜いた際のカタルシスが存在しない。

ので、彼が空港の外に出てNYの冬景色を見た際の感動を観客は共有する事が出来ない。したがって、そこに生まれる感動は中途半端な即席の感動に他ならないと俺は思う。

あー、それからトム・ハンクス扮するビクター君の人物像も、何か『フォレスト・ガンプ』な臭いがしたんだが、俺だけだろうか?

ま、長い事記憶に残る作品ではないのは確か。その場限りの安易な“感動作”

ただ、その中でもキャサリン・ゼタ・ジョーンズとの恋愛エピソードは中々だった。ポケベルを投げ捨てるシーンなんて、散々描きつくされたエピソードだが、そういうエピソードを織り交ぜ、結局ハッピーにエンディングを迎えるのかと思わせながら、結局彼女を別の男の方に走らせる、と言うのは妙に現実的で関心した。ま、キャサリン・ゼタ・ジョーンズが出てるのに、真っ当な恋愛が展開する、なんて思ってた俺がバカなだけかもしれないけど。

それから、空港が舞台って事で、仕方が無い事なのかもしれないけど、妙に看板やCMなどが多く写っていたが、あれは意図的な目論見があっての事なのだろうか。だとすれば、本作は紛れもなくスピルバーグ&トム・ハンクスの小遣い稼ぎにしか考えられない。

映画がつまらないだけに、この異常な程の広告的カットの多さに嫌悪感を抱き、俺はスピルバーグがCMを見せたいのか、映画を見せたいのか、どっちかにして苛々していた。

そうそう、それから詳しくは知らないけど、空港でバーガーキングのハンバーガー食おうと思ったら、クオーター×3枚じゃ食えないと思うんだけど、どーなんだろ。

(評価:★2)

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