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[コメント] ヴェロニカ・ゲリン(2003/米=アイルランド=英)

世界は一人じゃ変えられない。でも、世界を伝える事は一人でも出来る。映画自体は凡庸な出来に思えるが、エピローグに俺はひたすら涙した。伝える事の義務。それは事実を羅列する事ではない。 2005年2月13日劇場鑑賞
ねこすけ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







俺の好きな(GONZO)ジャーナリストで、石丸元章と言う人が居る。人面犬の噂を広めたので有名になった人。「SPEED」て本を書く過程で自分でシャブやってハマってしまって、そのままパクられた人です。因みにその時の留置場→拘置所→裁判所の流れを綴った「アフタースピード」は『刑務所の中』に負けず面白いです。で、その人の著作に「KAMIKZE」と言うのがある。タイトル通り神風特攻隊を扱った作品。石丸さん自身が元特攻隊印だったご老人方にインタビューして周る、と言う物。

石丸さんは、「インタビュー」で喋られた内容をそのまま綴る。しかし、時には彼自身、墓の前にたたずんで過去の特攻隊員達に思いを馳せ、涙を流す。

事実を率直に伝える事がジャーナリズムなのだろうか。客観的に事実を羅列する事だけがジャーナリズムなのだろうか。

ヴェロニカ・ゲリン、彼女は、母として、市民として、その街の未来を本気で憂えて「誰も見ない現実」に目を向ける事を促す為に記事を書く。その報道の方法に問題はあったかもしれないし、それが確かに異端であるかもしれない。社会を変える為に無関係の人を冤罪で訴える等は、実に腹立たしい事だ。

だが、彼女が情熱を燃やした事、つまり彼女自身が感じている憂いを人々に伝えると言う行為、それその物は決して非難される物ではないだろうし、むしろそれらから目を背けて目先の事実を報道してジャーナリズムを気取ってパブでビール飲んでいる人間より遥かに立派ではなかろうか。無論、何に価値を置くかは個人の問題ではある。

しかし、彼女の街の未来に対する心配は、やがて記事と言う形になり少しずつ人々の手元に供給される。結果的に、彼女の死が最も効果的な「麻薬撲滅」の記事であった、と言うのは実に皮肉な結末ではあるが、しかし、彼女の記事は世界――と言ってもアイルランドのダブリンと言う街だけかもしれないが――を変えた。

エピローグで語られる、彼女の死後1年間の急激な取締り強化。彼女は世界を変えたんだ。彼女が、本気で撲滅する事を考えず、中途半端な浅はかな気持ちで事実を羅列しているだけだったら、そうはならなかったかもしれない。彼女が過激な報道で有名だったからこそ、彼女の死が報われた、と言う物であろう。

俺は涙せずに居られなかった。

誰かがやらなければ何も変わらない。でも、誰かがやればその人は潰される。この世界の悪循環は、人間本人が生み出したものである以上、それを根絶させる事は不可能かもしれない。

そんな無謀な壁に立ち向かうと言うのが、ジャーナリズムに於ける大切な事ではなかろうか。人間、本当に無謀と思える物は無意識的に目を反らすだろう。ジャーナリズムは、そこに着眼し、世界を変える手助けをすべきなのではなかろうか?そのために存在しているのではなかろうか?

ペンは剣より強し、と言われる。ヴェロニカ・ゲリンは銃殺された。しかし、彼女の死は剣をへし折る力を扇動した。全てのジャーナリストに「死ね」と言う訳じゃないし、マフィアにボコボコに殴られてまで文章書けとは言わない。殴られて泣きながら帰って、家でゲロ吐いて怖がりながらも「この事は言わないで」と言う風に気丈に振舞えとも言わない。っていうか俺自身んな事できねぇし。

でも一行の文章が世界を変えるんだ。当にジャーナリズムじゃないか。

まぁ所詮18歳のボンクラの俺には良く分からんけど。

でもさ、街中に注射器が落ちており、幼児が注射器を玩具にし、ティーンドモは廃人となり、「女を脅して金を取る」と得意気に語る野郎ドモがマジョリティ。ガキにシャブ売って新車のベンツを乗り回すプッシャー。『シティ・オブ・ゴッド』な街。おいおい、意外に世界中に荒廃したファッキンワールドってのは存在するんだな、と思った。

何が出来るか、は最終的な問題だ。問題を知る事がまず最初にしなきゃならない事だ。

――で、映画として見てみると、決してテンポは悪くないと思う(上映時間も1時間半満たしてないし)のだが、少々パンチが弱い印象。まず冒頭(裁判→ガラス割られる)は絶対的に不必要に思う。何の役割も果たして居ない編集。アホか。

クライマックスも「クライマックス」と言う程盛り上がるわけではない為、作品そのものに緩急があまり感じられないから、「事実」と言う重みに頼っている印象を受ける。

実際、俺自身も上述みたいに熱く訳のわからない事を語れるのだって、『ヴェロニカ・ゲリン』に心を動かされた訳ではなく、ヴェロニカ・ゲリンに心を動かされただけなんだし。映画としては★3と言う印象。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)かるめら 町田[*]

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