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[コメント] 儀式(1971/日)

この作品、抽象的に描ききった印象なのは、国家というのを取り扱ったから保険で抽象をいれたからであろう。が、しかしそこは大島渚。抽象でありながら中傷的にも描き、戦争総括を先送り対処法で乗り切る国家の問題点を的確に鋭く突いた力作、であり儀式。
ジャイアント白田

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







人類の進化と共に歪んでいく家父長制度に、国民を自分の独占物と思っている国家を重ね合わせ、志廃れる世の中に喝を入れようとした大島渚。彼の言いたい事が凝縮されているのはやはり「花嫁なき」結婚式・披露宴であろう。それは様々な日本の戦後の姿を表しているのは言うまでもない。

花嫁に逃げられても「急性盲腸炎」と周囲にアナウンスし強引に式を続行させるというのは、問題を直視せず無視してあいまいのまま次世代に持ち越そうとする日本国家そのものであり、官僚の腐敗ともいうべき恥ずべき様式美。それを芸術というオブラートで見る者の脳に流し込んでいく大島渚の怒りのエネルギーは素晴らしく正しい。加えて、戦後の事を狂気の美しさでフィルムに焼き付けたカメラワーク、その事柄の定着液として十二分に作品を高めた美術と照明。映画の深さを再認識させてくれた貴重な文化遺産である。

花嫁、不在と逃亡_____________

(1)敗戦で生じた日本国民の心の空虚=「花嫁の不在」

(2)トドメに原爆を落とされ焦土化した日本国土=「花嫁の不在」

(3)東京軍事裁判=花嫁不在の披露宴→人間宣言

(4)天皇人間宣言=「花嫁の逃亡」

(5)賠償問題先送り=「花嫁の逃亡」

(6)沖縄・北方領土問題=「花嫁の逃亡」

(7)大陸での虐殺・暴行・人体実験等の隠蔽=「花嫁の逃亡」

※以下、細かく言っていくと長くなりすぎるので割愛。

「花嫁不在」として見るのと「花嫁の逃亡」として見るとでは意味するところが微妙に違ってくるのだが、それは計算済みであって、大島渚は意図的で巧妙に両方を取り込んでいると感じた。「花嫁の不在」として見る場合、「花嫁の不在」=敗戦で生じた日本国民の心の空虚、焦土化した日本国土、東京軍事裁判(正義の不在や戦犯の不在)など。そして「花嫁の逃亡」として見る場合は、「花嫁の逃亡」=天皇の人間宣言(軍事裁判を回避)、賠償問題の先送り(当時、隣国等で起きた戦争や冷戦というのもあるが)、沖縄・北方領土問題(嫁を取り返すと言うが現実問題、不可能に近いと作中ではセリフで喋っている所を見て)など。

このように見れば、下記に書いた大島渚のこの映画「儀式」についてのコメントが“ほんの少し”は理解できるのではないだろうか。と、一人思っています。

「戦後25年、事はことごとく志に反したが如く思える。だからといって私は志を変えようとは思わず、戦いをやめようとも思わない。「儀式」はそのような意味で私のすべての映画と同じく同じ思いと持ちつつ倒れた死者への鎮魂歌であり生身への進軍のラッパである。」  by大島渚

2002/8/13

※以下、蛇足:シロタの備忘録

桜田一臣の死_____________

桜田一臣は「新日本国家改造計画」を読み上げようとして外に連れ出され車に轢かれ死ぬ。これは言論の弾圧、つまり日本国家の民主主義の脆弱さを表現している。そして車で轢かれると言う表現も「国民皆免許」の自動車時代=高度経済成長も反映させているといえる。それは「少年」にも言える事だが、文明の進化が文化を上回るスピードを出していた急激な経済成長をアイロニーしているのだろう。

桜田節子の死_____________

戦時下、占領地域で犯した罪(従軍慰安婦、虐殺など)を隠蔽しようとする日本軍の行為を、祖父の手による「節子の死」とダブらせた手法。さらに皆、祖父の手によるものだと分かっていながらも何も言えない様は「国家の脅威」と「国民の小ささ」を表している。従軍慰安婦等を節子に憑依させたのだとも言える。

立花輝道の死_____________

生活臭を消臭した小屋に一個の死体、祖父の死の新聞記事と共に置かれた遺書に書かれた文章「真に桜田家を継げうるものは僕だけだ。僕は自らを殺す事によってここに桜田家を滅ぼす」。立花輝道のしたかった事「桜田家を滅ぼす」であり国家を変えたいという若者の自決=世界同時革命を目指そうとした若者の挫折。

祖父の死_____________

戦犯の逃亡の終結または時効とも受け取れる。祖父=国家=官僚の図式の不変を打ち砕く前に次々と死んでいく抵抗分子を見てからの死は、国家の生命搾取=戦争経済を表現している。祖父の後光という特権で苦しめられた人々の末路を考えると歴史は繰り返すの法則が適用されるであろう。それは桜田輝道が死んだところで、他の家庭の国家は未だ変わらず、だからだ。

主人公:桜田満州男_____________

母と大陸から引き揚げて桜田家に来てはみたものの、母の「誰のお世話にもならず生きていこう」という考えに同調し去ろうとするも、国家という家族に捕まり家族の輪を首に付けられてしまう。そして服従を安住の地として過ごしてしまう典型的な国民になる桜田満州男。桜田一臣の棺に入る事が先が結果が見えている唯一の抵抗=東大安田講堂占拠。

※最後まで強引な文書を読んでくださってありがとうございます。

(評価:★5)

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