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[コメント] パリ20区、僕たちのクラス(2008/仏)

2時間まさに教育の現場にいる怒涛の空間であった。できたらこの場にいたくない、という気持ちも現れるが、途中で映画館を出るという失礼なことができるはずがない。仕方ないなあ、という気持ちで映像を見つめる。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







日本では考えられないぐらい多国籍の児童たち。フランス語だっておぼつかない子もいるぐらいのるつぼのような教室。そのくせ、大人を試したりしてほくそ笑む子供もいる。でもこれが子供たちの真実の世界。彼らは、悪く言えばうまく成長して耐久力のある大人になっていく。

立派に成長して大人を演じている教師たちも実はそれほど立派な人格を持っているわけではない。そもそも授業ができる環境でないと子供たちを弾劾し教務室に戻ってくる情けない教師もいるほどだ。

この映画の教室の国語担任教師。熱心で、いい教師なんだろうが、心の闇で思ったことを児童にまで、つい口にしてしまうダメ教師。それが波紋になり一人の児童が退学になるのだが、周囲も知っていてもその原因を掘り下げることをしない。そして映画はあっけなくそこで終わりとなる。

と、こうなると観客の印象はやはりその担任教師の人間の暗黒に向かうことになる。子供たちは思ったことを自由に語る。それが授業を邪魔し、ブレーキングにもなる。でも大人には思ったことをストレートに言ってはならないことは絶対に存在する。その意味ではこの教師も単なる子供で、教師失格であろう。でも、彼も人間臭い人物であり、まさにその他大勢のフツーの人である。

脚本がほとんど俳優に自由に任せられたのであろう、そこには人間のコミュニケーションをめぐる葛藤が描かれていた。あれほど問題提起されていた一人の児童の退学も、時間が経てば教師も交えて、みんなサッカーに興じてすっかり忘れ去っている。一個の重い人生も周囲の人間にとってはただのすぐ溶けるような伝達媒体物でしかないのだろうか。意外と深みを持って後に引く秀作である。

(評価:★5)

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