コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 今度は愛妻家(2010/日)

映画、小説でこそ使えるトリックをうまくこの映画は我々観客に大サービスして披露してくれる。行定勲うまいわあ。感心する。何げない夫婦の会話も壺にはまり、子供のいない夫婦の、お互いしか寄るところのない愛の確かさを表現する。
セント

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







いい映画って冒頭から観客を乗せてしまう。仕事もしないでぐうたら生活をしている夫とそれを見守る妻。夫婦って結婚しちゃえばそれほどお互いに胸の内を話さなくなる。会話はあっても本質的なことは、特に愛の部分は恥ずかしいのか避ける。会話でいつでもどこでも「愛してるよ」と平気で言える外国人には分からないだろう、この奥ゆかしい日本人の感覚、、。

と、こう、恥ずかしくも言ってのける僕。何を隠そう、僕も結婚して以来妻に愛してるよ、なんてそんな気恥ずかしいことは云十年言ったことはない。思っていることの1/100も金輪際伝えていないから恐らくもう冷え切った夫婦だと思われているだろう。口を聞けばバカにされているような気さえする夫婦の会話、、。ああ、しかし、、

大体日本人の大部分はお互いの気持ちを本当に開くことなく夫婦生活をしているのではないか。そんな日本人が見たこの映画、恐らくほとんど納得してしまうシーンが多く、そのまま共感してしまうのではないだろうか。でも、夫婦って、映画のように甘さはそれほどなくても、やはり話さないと分からないものなのだ、とこの映画は教えてくれる。

男はでも、話さなくても分かると思っている動物である。特に日本人は。そこに思いがけない罠が潜んでいるのだろう。

夫婦でも家族でもそうだと思うが、人間はおそらく一人では生きていけないのだろう。でも、一人でいたくなる時のあるのも事実。そんな男と女の感情をこの映画は的確に描写する。完全に的を得た演技。乗りに乗った素晴らしい演出。そういう旬の映画感覚がこの映画にはある。

途中で妻の出現の不思議さに観客は気付き始める。それからだ。この映画のいとおしさが高まってくるのは。

僕は庭で珍しく夫が離婚記念にと写真をばしばし撮るシーンに急に号泣する。分かる。分かるなあ。ずっと二人でいたいんだよ。そうだよなあ。普段は邪魔な存在でもあるけれど、実は常にそばにいて欲しいんだよ、ね。相変わらず甘いと言われようが妻ってそういう存在でもあるのだ。

その必死で写したカメラのネガに妻がいないことが分かってしまうシーンから、観客は妙な真剣さを求められる。僕は涙が出っ放し。ふと大林宣彦の『ふたり』を思い浮かべる。そんなみずみずしいイメージでもある。

ラスト近くの若者二人の恋愛劇はなくともよかったと思ったが、この映画は本年屈指の秀作であることに違いはない、と思う。日常的な会話の積み重ねでここまで存在の喪失感を表現でき得た映画もまた珍しい。

恐らく行定勲の最高作であるだろうし、主演豊川悦司の代表作になるだろう。薬師丸ひろ子も相変わらず愛くるしい容貌。いい演技だ。そして意外やオカマ役で骨太な石橋蓮司の演技。この映画の奥行きを広げている。今でも余韻が残る秀作だ。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (8 人)mal IN4MATION[*] 赤い戦車[*] ぽんしゅう[*] ナム太郎[*] ペペロンチーノ[*] けにろん[*] 水那岐[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。