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[コメント] アキレスと亀(2008/日)

繰り返し同じテーマを追求する北野の最新作だ。連続同テーマの最終作らしい本作、まあ今回が一番見やすかった。
セント

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







映画作家っていわゆる81/2を撮りたがるものだ。作品の産みの苦しさは我々消費者(観客)どもには決して理解出来ない代物だろう。それこそ芸術というものはそもそも何なのか、という前に産みの苦しさが彼らの前に歴然と立ちはだかるのである。いわゆる作って何ぼなのである。何ぼの前に、芸術作品という価値があるわけなのだが、まず売れなければどうしようもない。ゴッホとかモジリアニ等生前は売れなかった絵が、死後は売れたのであります。だからこそ現世に伝わり、我々は芸術を鑑賞できる。

ところで、こういう81/2ものは作り手の作家の方は自分の脳裏を題材に映画を作るわけで、それこそ自分の血と肉をそぎ落とし解体するのだが、見せつけられる観客はよほどそれが秀逸でない限り興味のないものになり果てる可能性がある。

で、ぼくはこの最近の北野の産みの苦しみを3回も見させられ、実際のところ閉口しているのであります。映画を作れないのであれば作らなければいい、とまで前2作について書いてしまっているほどです。北野ファンだと自認していた僕が、であります。でも、僕が北野を認めているのは「HANA-BI」までであり、それ以降実はかなり不満のあるのを感じつつ鬱屈していたのも事実です。

本作は前半部分は珍しくきっちりとシリアスに一人の画家を描いている。まさしく遜色のない伝統的な映画作風であります。締まった映像がそこにあります。茶目っ気なしで十分シリアスな映画にしてしまうぐらいやはり北野の力量は相当のものだと伺わせます。こちらの目じりも下ってきます。

後半、中年の画家の描写になってから受けを狙ったような描写が目立ってくる。面白いけれども初期の作品に見られるような自然体のギャグではない。北野の哀しみのようなものは伝わらない。考え抜いた後という思惑を感じてしまう。

映画は芸術至上主義気味の男とその絵に賭けた人生を描いている。途中、飢餓と芸術との比較論があったが、芸術ってこんな単純な理論で解説しちゃっていいのだろうか、疑問は残る。どんな小さな絵画集でも詩集でもそれ一枚で人生の糧にする人もいるはずであります。もちろん、空腹で苦しくても好きな映画を見るためになけなしの金をチケットにしてしまう人もいるでしょう。(アフリカの飢餓とはだいぶ温度差はありますが、、)

芸術と夫婦愛とを同一延長線で描いているから、僕にはラストもただ、あ、また逃げたなあ、と思ってしまう。北野はやはりずるい。やはり計算が働いている。うまくまとめた感がある。

映画作家は何を描きたいのか、明確なテーマがあって初めてメガフォンが取れるのだ。この映画からは北野武の、映画を通して描きたいテーマとういうものは僕にはあまり感じられなかった。3作も81/2をやったから、またそろそろ爽やかなそれでいて痛い北野映画を作ってもらいたいと思っているのは僕だけでしょうか、、。内向からは何も生まれない。もっと外に大きく飛翔してほしいと切望します。

生意気なことを言ってすみません。本当に作りたくなった時に自然とほとばしるエネルギーに身を任せ自由な北野映画を見たいなあと思いました。(そんなの、勝手に論じるな、といろんな人から非難されそうなコメントを書いてしまいました。ゴメンナサイ)

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)緑雨[*] ゆーこ and One thing[*] ペペロンチーノ[*] IN4MATION[*] ぽんしゅう[*]

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