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[コメント] ベルベット・ゴールドマイン(1998/英=米)

若さゆえの痛み・・・というより、若さゆえの「痛さ」というのがこの映画のテーマなんじゃなかろうか。
Alcoholic

ある日のこと。あなたはお洒落をして出かける。特に用事があるわけでも、友達に会うわけでもない。しかし今日着ているのはいつもの2900円(もしくは1900円、3900円)のベーシックなシャツではない。今年の流行と言われるやつを、3900円(もしくは2900円、4900円)で買ったやつなのだ。もう来年は着られないであろう、エラいデザインの高いシャツを、何でもない日に着てしまう自分のお洒落さが憎い。見よ、ウインドーに映る自分の姿を。あなたは鼻息も荒く、うきうきした気分で歩いていく。

と、そこに。前からお洒落さんが来る。あなたと同じようなシャツ。しかし、相手のやつはあなたが雑誌でチェックした馬鹿高いやつだったりするわけだ。しかも、相手のお洒落には隙が無い。ボトムも今年流行のスキニーなやつだ。あなたの十年一日のものとはデザインからして違う。・・・ふと、相手と目が合う。あなたは急いでそらしてしまう。相手が何を思ったわけではない。でも、あなたは「負けた」と感じる。虎の皮をかぶった狐が、本物の虎に会ってしまった時の恐怖心、そして情けなさ。

ぶっちゃけた話、この映画で一番心に残るのは、アーサー青年の朝顔シャツのシーンだったりする。お洒落してみて、気張ってみて、なんか打ちのめされて帰ってくる。何年か経って上京した青年は、親が見たらぶっ飛ぶようなファッションセンスに身をゆだねるわけなのだが、それから十年も経ってみれば普通の服を普通に着こなし、あんな服着てた過去なんてなかったような顔をしている。思い出そうとすれば思い出せるけど、思い出さない過去。それは自分があまりに情熱的だったことが、大人になってしまった自分にとっては恥ずかしく、痛痒いものだからだ。

こんなことを考えるのは、もう結婚もした今になって高校生のころのことを思い出したからだ。高校生のころの私は、この映画(とジョナサン・リース・マイヤーズの美しさ)にはまって1日に3回ぐらい見てた時期があった。ええ、音楽のことなんて分からないくせにとりあえずデヴィッド・ボウイのCDを借りてきたりしましたとも。ああ痛い。ああ恥ずかしい。

別に映画を否定するわけではない(5点をつけてるし)。でも、この映画全体に漂う・・・というか、今になって私が感じるこの青臭さは何だろう。勢いにのって歌声まで披露したジョナサン・リース・マイヤーズが。長髪がヤバいほどダサく見えるユアン・マクレガーが。ジョナサン・リース・マイヤーズに「君はギリシア彫刻のように美しい」と言ったといわれるトッド・ヘインズ監督が。ああ、全てが痛く、恥ずかしく、物悲しい。この映画を見る時、私はどうしても過去を思い出すアーサー青年になってしまうのだ。

しかし一番痛くて恥ずかしいのは、そんな過去を「若かったから」の一言で言い訳しようとしている自分であること。そんなことぐらい、とっくに分かっているのだ。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

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