[コメント] 八月のクリスマス(1998/韓国)
映画を見終った人むけのレビューです。
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スクーターが引き返してくる音を聞いてこぼれる笑み、芽生えた恋をためらうかのように手にした化粧品を戻すシーン、そして写真館に入る前にそっとスクーターのミラーで顔を見る女の子の決意、取り出そうとして部屋の中に落としてしまった手紙。
夏の日差しに布団の中で目を覚ます主人公の表情、深夜のはしごでふざけ半分で口にする死の告白、そして「何故俺が静かにしなけりゃいけないんだ」という叫び、葬式のためだというおばあちゃんの写真を撮るシーン、校庭の競争で必死に女の子を追いかける姿が遠くに写るシーン、幽霊話に「時々怖かったり怖くなかったり」という感想をポソっと述べるシーン、ビデオの操作法を教えつつ次第に苛立ちを募らせるシーン、身辺整理、雷の夜におびえるように父親のとなりに布団を並べる主人公の底知れない恐怖と孤独、出さなかった手紙、その代わりに感謝するかのように店に飾られた女の子の写真、自らの葬式写真の中のすべき事を終えた人間の見せる表情。
とっさに思いついただけでも、これだけある。長ねぎや、スイカや、アイスや、みかんまでもがなぜか心に残る。他にもたくさんある。これらを見ながら考える。淡い恋心や悲壮な決意などについて、ひたすら想いをめぐらす。そして想いをめぐらせるだけの「間」が、確かにここには用意されている。そんな映画。夏から冬までの季節がとても短く、時の流れがとてもはかなくて無情なものに思える。そんな映画。美しい語り口というのは、こんな映画のためにあるのだろうなぁ。
そして説明を最低限に切り詰めた、なんとも潔い佇まい。自然の摂理としての「死」を前にして、孤独と恐怖に苛まれながらも、後を濁さず潔くあろうとした姿を描いた映画。こちらがどんなに理解を深めようにも、想像するしか手立ての無い種の苦悩を秘めた、悲壮なおだやかさ。亡き撮影監督に捧げられたという言葉に偽りはない。死者に対してあえて軽はずみなコトバを費やそうとしない潔さ、誠実さがどこをとっても伝わってくる。そんな映画でもある。[4.5点]
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