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[コメント] いぬ(1963/仏=伊)

曇り眼鏡から開放された時、その男たちの本当のカッコ良さが見えてくる。
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







彼らにとって嘘はまさに命綱。しかし嘘から逃れようとした途端に、その綱は使い手の首を締めにかかる。友情や愛情なんてものも、この法則の前では足枷でしかないらしい。まさに非情なる世界。

しかしこれは、死が目の前にあるのを知りながら、あえて友情や愛情という足枷を外そうとしない2人の男の美学の物語。死の間際に危険を知らせるモーリス。瀕死の状態で恋人に電話をかけるシリアン。そして身なりを整えつつ自らの運命を享受する。死を前にして自分に対して微塵の後悔も迷いもないってのは、やっぱカッコいいデス。

タネも明かされないままプロットばかりが錯綜していくので、かなりの集中力が必要。しかも錯綜していくうちに何を信じて良いのかも分からず、コチラの目も次第に曇ってくるので、実際タネを明かされてもにわかに信じ難い。全てに実感が伴なうのには、ラストを待たなければならない。この話の引っぱり方には驚く。しかも具体的な説明を必要最小限に抑えたかなり硬質な語り口なので、錯綜してても説明(言い訳)臭さが全くない。余程骨組みがしっかりしてないと、こんなことは出来ません。錯綜したプロットでタネを仕込む映画が多い近年において(『L.A.コンフィデンシャル』、『ユージュアル・サスペクツ』、その他モロモロ)、その違いは歴然。格が違い過ぎる。

ともあれ夜や暗い室内の映像が相変わらず素晴らしい。冒頭の鉄橋下を歩くシーン、倒れた反動で揺れる明かり、ガス灯、霧、懐中電灯の光、金庫破りでの必死の逃走、等など。挙げ始めたらキリがない。そしてラストの「つ・い・た・て」の言葉を合図に、振り向きざまに銃弾をブチ込むクダリ。もうこの強烈な平手打ちのような瞬発力、爆発力。犯罪映画に望むべきものここにアリ、と言ってしまいたい。[4.5点]

(2002/12/5)

(評価:★4)

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