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[コメント] 悪魔の手毬唄(1977/日)

少々情緒過多だっていいんです。壁や畳のシミまでもが無性にもの哀しい。横溝映画の代表作というよりも、これはあくまで日本独自の土壌を肥やしに咲く、数奇な「メロドラマ」の(決して多くはない)傑作として、記憶しておきたい。
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







深い影に支配された画面に、冒頭から通奏低音のように流れるもの哀しい旋律。冒頭でリカが画面に登場した瞬間から、すでに観客はその先の悲劇の予感を、理屈を越えてその場の空気で感じる。監督はここで、本編がメロドラマであることを密かに、しかし確信をもって宣言する。『犬神家の一族』では物語よりもテクニックが先行してた感があるが、ここにおいてはじめて、全てのカメラワークや編集が物語を支えるものとして捧げられ、消化されている印象を受けた。

そして磯川警部にしろリカにしろ、人生と愛を秤にかけたとしたら、それが愚かだと知りつつも愛を選ぶ。そして、そんなわが身の運命をどこかで受け容れている。物語半ばで引用される『モロッコ』のディートリッヒの後姿と、沼地に消えるリカの姿がこちらの脳裏で二重写しになる。我が子を殺めた己を呪う以上に、個人的には死してなおリカを縛り付ける夫に、己の魂をあの世まで引き摺られてしまった姿に思えてならない。そしてそんな全てを知りつつ、リカの子供を養子にする磯川警部。彼もまた、死者に身を捧げる運命に己を委ねる男なのである。

そして忘れてならないのは、金田一自身のやりきれない悲しみ。おーい粗茶さんも指摘してますが、暗い山村の風景を徘徊する小さな黒い影、その印象深い画面。その黒いマントに身を包む彼は、この物語において不吉な便りを携えて現れる「死神」のような役回り、なのではないだろうか。悲劇の結末を宣告するのみで、どうすることもできずに傍観せざるを得ない、そのやりきれなさ。そもそも探偵というのは、決して物語の主要人物たり得ないのかもしれない。そしてラストの「あなたリカさんを愛してらっしゃったんですね」のセリフも、磯川警部の耳には決して届かない。そう、それでいいんだ、という傍観者としての自分の役回りをフっと受け容れたかのような、穏やかな笑みが長い余韻をひく。

最後に。リカに関するキャラ作りでは、何より「忘れっぽい」という設定が絶妙だった。はじめは一つの愛嬌みたいなものかと思いきや、最後には何で忘れっぽくなったのかを考えるだけで、もう悲しくて悲しくて言葉を失います。

(2007/1/8 再見)

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)ぽんしゅう[*] Myurakz[*] ジョー・チップ けにろん[*]

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