中島哲也監督独特の演出のウソっぽさがうまい具合に作用して、非現実的で大仰な悲劇（あるいは喜劇？）の傑作を見ている気分になった。登場人物たちが告白する彼らの行動の動機はどれも整理されすぎていて、とても全面的に信じることはできないが、もちろん監督はそれも織り込みずみで、どこまでが真実でどこまでが虚構なのか、わざとあやふやにしているのだろう。自らの演出の長所と短所を知り尽くした匠の技とも言うべき見事な手腕だった。

あと私は、松たか子について、以前松本人志が「ほんこんに似てる」と発言したとき、思わずうなずいてしまったほど、個人的には美人とも思えないし、家柄以外に主役級の女優として活躍する理由をさがすのに苦労していたのだが、その理由がようやくわかった。このひとは声がいいんですね。柔らかでありながら冷徹でときに感情がこもる彼女の台詞回しは、本作をささえる重要なファクターだったと思う。