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[コメント] 原子怪獣現わる(1953/米)

この映画に登場するリドサウルス(RHEDOSAURUS)というのは創作の恐竜ですが、最初のRHというのは実はレイ=ハリーハウゼンの頭文字から付けられたそうです。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 1953年というのは名作映画が目白押しの年だが(私の好みの作品で言っても海外では『ローマの休日』、『シェーン』、『第十七捕虜収容所』、邦画でも『東京物語』がこの年に登場している。しかもそう言った名作のみならず、アニメで『ピーターパン』が、ジャンル作品として『グレンとグレンダ』など。無茶苦茶な年だった)、怪獣映画においても特筆されるべき年。本作の登場は怪獣映画の新しい境地を内外に知らしめ、それまで細々と作られていた特撮作品が以降一気に増えてくれた。翌年に公開されることになる『ゴジラ』にも関連を持っている。

 特撮好きな人間であれば本作のことを聞くことは多いだろう。レイ=ハリーハウゼンの実質的なデビュー作であるのみならず、翌年に日本で公開される『ゴジラ』(1954)とよく似た作品として。この作品が『ゴジラ』の元ネタとなったのではないかとはよく言われることだが、それほどにこの2作はよく似ている。

 面白いので類似点を並べてみたい。

 ・太古の恐竜が水爆によって目覚めた。

 ・最初の内、怪獣は限られたものだけに目撃され、それを主張した人間は変人扱いされる。

 ・怪獣は都市を目指して海からやってくる。

 ・二足歩行する。

 ・そのものが持つ破壊力のみならず、副次的な放射能によっても人間は被害を受ける。

 ・通常の兵器では倒すことが出来ず、科学者の考案した兵器により、しかもその当の発案した科学者自身の特攻に近い攻撃によって怪獣は倒される。

 …確かによく似てる部分はたくさんある。そのどちらにも原水爆に対する危機感というのが根底にあるのも確かだろう。

 では、逆に似てない部分を考えてみよう。

 ・原子怪獣リドサウルスは恐竜然としたシルエットを崩さないのに対し、ゴジラはむしろ人間の形態に似ている…これが日米の特撮の大きな違いとなる。オブライエンによって怪獣が映画に登場した時、その怪獣は、コングや等身大の怪獣などいくつかの例外はあるものの、アニメーションによって動かされていた。そのオブライエンの弟子であるハリーハウゼンが作るのだから、当然怪獣はアニメーション合成によってなされることになる。それはまさに芸術的と言って良い出来で、このなめらかな動きと言い、質の高さと言い今でも感心するが、一方日本ではその当時アニメーション合成に割ける予算がなかったのと、技術力も不足していたため、基本的に合成は最小限度。コマ撮りもなるだけ避け、人間が着ぐるみの中にはいることになった。技術的には確かに劣っていたかも知れない。だがこれが日本の特撮の数々の傑作を生むことになるのだし、海外に誇れる日本映画はここから生まれた。

 ・そして重要なのは、ゴジラが“荒ぶる神”であったのに対し、リドサウルスはあくまで大きなトカゲに過ぎなかったこと。形が似ていても、ここが一番の問題だった。結果本作は数多ある特撮映画の一つに数えられるに過ぎないのに対し、『ゴジラ』は特撮映画を代表する一本へとなった(蛇足だが、『GODJILLA』(1998)は『ゴジラ』よりもむしろ本作をベースにしたような印象を受けてしまう)。

 形がいくら似ていても、怪獣に魂があるかどうかと言う点が違っているため、全く違う作品になってしまう。どちらも原子をもてあそんだ人間の悪行の因果話には違いないが、それに懲罰を与えるのは自然であるか、神であるかという点に国際性の違いも感じられる(それが神の使いであるとするのならば、それを退治してはいけないというのが西洋にはある)。

 ・後は怪獣を倒す科学者の個性の問題かな?主人公は怪獣だが、脇を固める人間のドラマも大切。本作はどっちかというとかなりステロタイプなドラマで仕上げたけど、日本でのあの芹沢博士は静かな狂気を体現していた。あの強烈すぎる個性がゴジラに負けない人間ドラマを作り上げていたと言うこと。

 これは作り方の違いであり、そのどちらが正しいとか間違っているとかではない。事実、本作のヒットによりハリウッドに怪獣映画のブームを巻き起こすことが出来たのだし(50年代に量産されたハリウッド製SF映画は本作に負うところが大きい)、一方のゴジラは今も尚続く息の長いシリーズとなっていった。映画史においてはどちらも重要な作品であることは確かだろう。

 尚、本作は特撮担当のハリーハウゼンの実質的なデビューとなるのだが、彼には子供の頃からの友人こそがレイ=ブラッドベリ(私の最も敬愛する作家の一人)。二人とも映画に対する情熱を持っていたため、ブラッドベリは快く自分の名前を出すことを了解したそうだ(原作はブラッドベリの短編「霧笛」となっているが、あくまで下敷きであり、映画の内容そのものは随分変化してる)。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)Orpheus kiona 小紫 kawa[*]

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