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[コメント] シャイニング(1997/米)

自分の意向に添わないものを作られ、しかも絶賛を受けてしまった…作家としてのスティーヴン=キングの意地がこの作品には込められている。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 既に名作の一つに数えられる、キューブリック監督による『シャイニング』はあるのだが、原作者のスティーヴン=キングはこの作品にえらくご不満で、この『キューブリック版シャイニング』を「エンジンの積んでないスポーツカーだ」と酷評していた。それでキングの肝いりで作られたテレビムービーが本作。キング自身が製作総指揮も取っているだけあって、本当に原作に忠実に作られていた。まあ、その分どうしても尺が長くなってしまい、普通の映画の3倍もの長さになってしまったけど(キューブリック版と較べても倍以上)。流石に観終わった時はつかれた。

 原作が良いだけあって、それを忠実に映像化した分、かなり良質な作品に仕上がっている。元々キングの、特にホラー作品に共通するのは、どこか欠陥を持つが、なんとか一般生活を送っている家庭が主役で、その内の誰かが外側からの(超自然的な)圧迫を受けて徐々におかしくなっていくと言うもの。途中何とかして元の生活に戻そうとする努力が挿入されるため、非常に涙ぐましい作品となる傾向がある。

 通常の映画だと、時間的な制約を受けるため、この途中の努力の部分が問題となる。これこそがキング作品の醍醐味なのだが、これを入れると時間がかかりすぎてしまう。『キューブリック版シャイニング』の場合、そこをすっ飛ばしてしまったため、ホラーと言うよりサイコスリラーっぽい出来になってしまった訳だが、ジャック役のニコルソン&ダニー役のロイドの好演と、美しすぎる程の描写によって全く別物の、凄まじい作品となっていた。対する本作は時間をかけてるだけあってキング原作に忠実に、その過程が丹念に描かれている。良作の少ないキングのホラー作品の中では最も良い出来だったんじゃないか?

 ラスト部分もかなり忠実なんだけど、イメージ的にはちょっと違っていた。私のイメージでは、ホテルは炎上ではなく、文字通り爆発して欲しかったし、植木の動物がハローランに襲いかかってくるシーンを入れて欲しかった(原作にあった動かないはずの植木が見る度に近寄ってくるってのが凄く怖かったから)。それと、最後のケレン味はあって然りなんだろうけど、ホラーとしては定番過ぎるしなあ。個性を出すんだったら、もう一工夫欲しかったね。

 …と、言う事で、『キューブリック版シャイニング』と点数こそ同じだけど、小数点まで付けたら確実に向こうの方が上。

(評価:★4)

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