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[コメント] サンライズ(1927/米)

本作は面白い事にアカデミー賞を取ったアメリカ本国よりも日本で高く評価されたそうです。このストーリー運びはなるほどとも思いますね。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ドイツの劇作家ヘルマン=ズーデルマンの小説に基づいて制作された作品で副題は「ふたりのための歌」。ドイツの第一線で活躍し、戦前のドイツ映画の一時代を築いたムルナウ監督ががアメリカでのフォックス入社第一回作品となったが、既に大監督となっているムルナウに対し、フォックスは莫大な予算を提供。制作を一任したという。そのお陰でムルナウの作家性を存分に引き出す事に成功している(原作、脚色、撮影を全てドイツ人で固めていたことからも分かろう)。以降の映画は監督よりもプロデューサの意見の方が強くなっていき、本当に作家性のある作品は大作映画では少なくなっていくから、監督にとってはとても良い時代だったのだろう。

 本作の最大の成果はムルナウ監督はドイツ表現主義を、幻想的世界ではなく自然界にある方向へと向かわせていった。ここでのクライマックスシーンの大嵐なんかは、特撮としての見所のみならず、映画で大自然を切り取ろうとしている努力と見ることも出来よう。これは多分に実験的要素があったため、スペクタクルを求めていた視聴者にはあまり受けが良くなく、興行的には奮わなかったそうだが、映画を一歩新しい方向性へと踏み出させたという意味においては映画史に残る作品と言えよう。

 演出も流れるような流麗なカメラ・ワークと言い、表現主義らしい明暗がくっきりと分かれた表現方法など、サイレント映画の強みを上手く使っている。

 物語も今にして見ると、流れこそ単純ではあるが、後のフィルム・ノワールへとつながるサスペンスの流れもしっかりしているのも分かる。こんな早い時代にストーリー運びの上手さややスペクタクル性まで取り入れた作品を作り上げたと言うことで、ムルナウ監督の実力がうかがい知れる。

 ちなみにこのストーリーはアメリカ国内よりも実は日本で大いに受けたとのこと。当時の日本映画でも都会からやってきた男に田舎娘が誘惑されて起こる悲劇という物語が大変多く(立場は逆転してるけど)、日本では時事的にぴったり合い、当時の若手監督達に多大な影響を与えたという。

 第1回アカデミー賞は実は2つ作品賞があり、作品賞を取ったのが『つばさ』だったが、芸術的優秀作品賞を取ったのが本作。この出来なら頷ける。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

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